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ゴッホ展 ヘレーネとフィンセント<上>激情の画家 後世に伝え 夜のプロヴァンスの田舎道

2021/12/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 激情の画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90)の画業をたどる「ゴッホ展ーー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」が23日、福岡市中央区大濠公園の市美術館で開幕する。作品収集を通じてゴッホの名を世に知らしめたヘレーネ・クレラー=ミュラー(1869~1939)のコレクションなどゴッホ作品52点が並ぶ。展示作品の一部とゆかりの人、場所を紹介する。

■「ゴッホ展ーー響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」のチケットのご購入は
コチラから。


●夜のプロヴァンスの田舎道 16年ぶり来日 収集家癒やした糸杉
 麦畑が広がる農村。三日月と星に照らされた青白い夜空に向かって、糸杉の大木が力強く伸びていく。

 西洋絵画の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホがヒマワリと並んで好んだ画題が糸杉だ。その最高傑作の一つと評される「夜のプロヴァンスの田舎道」が16年ぶりに来日する。

オランダ・オッテルローのクレラー=ミュラー美術館で、収蔵庫から取り出した
「夜のプロヴァンスの田舎道」を鑑賞する学芸員

 心を病んで南仏サン・レミで療養しながら創作したゴッホが、後に拳銃で自殺するパリ郊外の村へ向かう直前に描いた作品。その解釈をめぐり、美術専門家らが議論を重ねてきた。

 欧州の墓地によく見られる糸杉は、時に死を象徴する。ゴッホは自らの死期を画中に暗示したのでは-。こうした説に、オランダのゴッホ研究者シラール・ファン・ヒューフテンさんは反論する。「夜空は癒やし、伸びゆく木は生命力の象徴。この絵はむしろ、生への渇望を表現している」

 所蔵しているのはゴッホの母国オランダ東部オッテルローにあるクレラー=ミュラー美術館。その館名はある女性に由来する。

 ゴッホの油彩90点余り、素描・版画約180点を集め、世界最大の個人コレクションを築いたヘレーネ・クレラー=ミュラー。膨大な彼女の手紙を基に伝記を執筆した作家エーファ・ローフェルスさんも、この作品は死の象徴ではないとの立場だ。

 「技巧の高さ、自然への敬意、画題の神秘性…。彼女がゴッホを愛した理由のすべてが詰まっている。彼女はこの作品から癒やしの力をもらい、夢に向かって突き進んだのだろう」

 美術界に女性の存在が珍しかった20世紀初頭、無名に近かったゴッホの名声が確立する過程で大きな役割を果たしたヘレーネ。その半生は、ゴッホの画業を後世に伝える美術館を建設するという、大望の実現にささげられた。(東京新聞・谷悠己、写真も)

 

●名作集めた3人に思いを巡らせ クレラー=ミュラー美術館を訪問
 
今回展示されるゴッホ作品の大半を収蔵するオランダのクレラー=ミュラー美術館を訪ねた。

 首都アムステルダムから東へ80キロ。小ぎれいな小村オッテルローの中心部を抜けると、そこは深い森。木々の中を進むと視界が開け、庭園に現代風のオブジェが並ぶクレラー=ミュラー美術館が姿を現した。

 国立公園内という世界でも珍しい立地を生かすため、玄関前にある無料のレンタル自転車で広大な園内を周遊できる。野生のシカやイノシシも生息し、敷地面積は実に5500ヘクタール。160点が並ぶ彫刻の森もあり、館内鑑賞以外の見どころにも事欠かない。

 「コロナ禍のため一方通行なので、各作品をよく目に焼き付けてくださいね」。学芸員のレンスケ・コーヘン・テルファートさんがそう言って紹介してくれた館内のゴッホ展示室は、圧巻の一言。日本へ貸し出す48点は既に収蔵庫に回っていたが、「アルルのはね橋」や「夜のカフェテラス」といった名作群がシンプルな白い壁に惜しげもなく飾られ、いずれも強い存在感を放っていた。

 油彩90点余り、素描や版画180点以上。ファン・ゴッホ美術館に次ぐ規模のコレクションを築いた美術収集家ヘレーネ・クレラー=ミュラーが、来日展でのゴッホと並ぶ主役だ。

 「学校の遠足で、こんなに素晴らしい美術館を建てたのが女性であることに感銘を受けて以来、ずっと彼女のことが気になっていた」。オランダの作家エーファ・ローフェルスさんは近年発見された膨大なヘレーネの手紙を基に伝記を執筆し、美術館建設に命をささげた半生に光を当てた。

 ローフェルスさんによると、年間40万人が訪れる同館の誕生に欠かせない役割を果たした人物がもう一人いる。ヘレーネの夫で「鉄鋼王」と呼ばれた富豪アントン・クレラーの部下、サム・ファン・デフェンテル。20歳以上も年下ながら聡明(そうめい)でヘレーネの相談相手となり、事業で多忙だった夫に代わって美術館の建設構想を精神的に支えた。

 ヘレーネの手紙の大部分はサムに宛てられたもの。文面から彼はヘレーネに恋心を抱いていたとみられるが、夫も認めるプラトニックな友情関係は生涯続き、美術館完成から1年後の1939年に亡くなったヘレーネから館長職を引き継いだ。第2次世界大戦期には地下倉庫を造り、ゴッホの名作群を守り抜いた。

 国立公園内の丘にある墓地には、壮麗なヘレーネ夫妻の墓石を見守るように、サムの墓石も控えめに隣接されている。「美術館を訪れる人たちには、特別な人間関係で結ばれていたこの3人にも思いを巡らせながら、見学してほしい」。普段は立ち入り禁止の場所に案内してくれたローフェルスさんは、そう言って眼下に広がる森を見つめた。 (東京新聞・谷悠己)



●福岡市美術館学芸員、忠あゆみ氏が解説
 今回の注目作品の一つ、「種まく人」について、福岡市美術館の忠(ちゅう)あゆみ学芸員(近現代美術)に解説してもらった。

「種まく人」1888年6月17~28日ごろ、クレラー=ミュラー美術館
©Kröller-Müller Museum,Otterlo,The Netherlands

 本作の主題は、収穫の時を迎えた麦畑、そして麦畑を明るく照らす太陽です。
1888年の初夏、ファン・ゴッホは麦畑をテーマに、少なくとも10点の油彩画を描いています。種まき・成長・収穫・芽生えを繰り返す麦の生命は尊く、そのエネルギーの源となる太陽は「神のようなもの」である―このような価値観をゴッホは農民出身の画家・ジャン=フランソワ・ミレーの影響の下に培い、それを表現することを画家としての使命と考えていました。

 本作では、ミレーの「種まく人」(1850年)を下敷きに、太陽・麦畑への想いを強烈な色彩と濃厚な筆のタッチによって表現しています。空は青、畑は黄色、という一般的な色使いと反対に、太陽は黄色、麦畑は青と紫で描かれ、微(ほほ)笑みながら農民が振りまく種は、黄色の点描で描かれています。画面の随所にちりばめられた黄色には、太陽の持つ温度や光への特別な思い入れが感じられます。

 1918年、ヘレーネ・クレラー=ミュラーはオランダ・アムステルダムのオークションで本作を購入しました。美術館計画が本格的に動きだし、作品収集が最も熱を帯びていく時期、ヘレーネもまた太陽のまぶしさに魅せられたのでしょうか。(寄稿)

=(12月18日付西日本新聞朝刊に掲載)=

 

▼「ゴッホ展―― 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」
 23日~来年2月13日、福岡市中央区の市美術館。オランダのクレラー=ミュラー美術館、ファン・ゴッホ美術館の収蔵品から、ゴッホの油彩画、素描など計52点のほか、ミレー、ルノワールなどの作品も紹介する。主催は福岡市美術館、西日本新聞社、RKB毎日放送。特別協賛はサイバーエージェント。協賛は大和ハウス工業、西部ガス、YKK AP、NISSHA。観覧料は一般2000円、高大生1300円、小中生800円。1月3日、10日を除く月曜休館。12月30日~1月1日と4日、11日も休館。問い合わせは西日本新聞イベントサービス=092(711)5491(平日午前9時半~午後5時半)。

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