九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  回顧2021

回顧2021

2022/01/14 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

●九州美術の再評価進む
 今年も九州のアート活動はコロナ禍に悩まされた。公立美術館を中心に臨時休館が度重なり、人や作品の移動も不自由な中で、改めて地元の人材や資源に幅広く光を当てる展覧会やイベントが存在感を放った。コロナ禍が当たり前の日常にとなりつつある状況に対応した発信とも言え、図らずも九州美術シーンの再評価につながった一年だった。

 福岡市美術館は、1930~40年代に福岡市で活動した前衛美術家集団「ソシエテ・イルフ」の回顧展(1~3月)を開いた。「国に役立つ作品」が奨励された時代に、シュルレアリスムなどの「新しい」美を探求し、社会の混迷や戦争の足音へ敏感に応答した地元の芸術家たちの歩みを掘り起こした。

 熊本市現代美術館のグループ展「段々降りてゆく」(3~6月)は、九州を拠点に制作する現代アーティスト7組が土地土地に根ざした問題意識を作品化し、「私たちにとって切実な表現とは何か」と問いかけた意欲的な企画だった。

 久留米市美術館の「大地の力―Black Spirytus」(9~12月)は、巨匠から現代作家まで九州ゆかりの画家63人を紹介。明治期の美術史に重ねて語られてきた九州の洋画を、神話や自然など固有の風土を宿した表現や、地元に根を張る制作スタイルの継承といった新しい視点で読み解いた。

久留米市美術館「大地の力」では、巨匠らとともに山下耕平や田中千智といった
福岡で活動する現役作家も紹介された

 つなぎ美術館(熊本県津奈木町)の水俣病を地元から再考する3年企画「柳幸典つなぎプロジェクト」最終章の一環で、9月から開かれたユージン・スミス、アイリーン・美緒子・スミス夫妻の写真展も、地域の課題を深く見つめる展示だった。水俣病関連写真の保存・活用のための一般社団法人を、来年にも写真家らが設立する予定で、水俣を記録する機運はまだ続きそうだ。

 「ポストコロナ」を見据えた実践も始まっている。長崎県美術館の「隈研吾展」(1~3月)では、数々の「ハコ」を手がけてきた建築家隈研吾さんが、ネコのしなやかな暮らしぶりや目線を手がかりにした「脱ハコ」の未来都市像を提唱した。
海外からの入国が制限される中、各地の芸術祭はインターネットを活用して開催され、発表の場が減った地元アーティストの活動の場となった。

 長崎県内の離島で海外作家らと交流・制作する「長崎しまの国際芸術祭」(通年)では、小値賀島とオランダをオンラインでつなぎ、現地の作家と企画や制作を続けた。年明けにも島内にギャラリーを開くという。大牟田市の「第9回 炭都国際交流芸術祭in大牟田」(11月)は昨年に続き、地元作家を中心に作品を展示した。

 そのほか福岡では、天神を代表する2ギャラリーが、惜しまれながら幕を下ろした。1972年の開設以来、新天町商店街で約半世紀の歴史を刻んできた「新天町村岡屋ギャラリー」(5月末)と、89年の開館以来333回の展覧会を実施し、地元の才能も発掘してきた「三菱地所アルティアム」(8月末)。コロナ禍という逆風にもかかわらず、九州美術の豊かさを認識できた一年だったが、表現の場の減少は一抹の不安として残った。 (川口史帆)

=(12月22日付西日本新聞朝刊に掲載)=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 1f77d57038

民藝 MINGEI-美は暮らしのなかにある

2025/02/08(土) 〜 2025/04/06(日)
福岡市博物館

Thumb mini 199fb1a74c

挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」

2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館

Thumb mini e0b76283db

誕生85周年記念
トムとジェリー展
君が笑うと、僕も笑っちゃう

2025/01/25(土) 〜 2025/03/20(木)
福岡市美術館

Thumb mini 6c7088402b

大野城心のふるさと館 令和6年度冬季特別展「発掘された日本列島 2024」

2025/01/05(日) 〜 2025/02/16(日)
大野城心のふるさと館

Thumb mini a6bfef1b90
終了間近

所蔵品展No.166
香月泰男  ふるさととわが家

2025/01/04(土) 〜 2025/02/09(日)
下関市立美術館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 3be23516dd
コラム

「機動戦士Gundam GQuuuuuuX (ジークアクス)-Beginning-」が「発見」したものは何か? 「日本の巨大ロボット群像」名古屋展が始まる前に

Thumb mini ec9b62feba
コラム

瓦のデザインを読む ~陸奥国分寺補修瓦の謎/「発掘された日本列島2024」展の見どころを文化庁・文化財調査官が解説!③

Thumb mini f3a0c589b9
コラム

破片と破片がぴったんこ! 赤堀茶臼山古墳から出土した鶏形埴輪/「発掘された日本列島2024」展の見どころを文化庁・文化財調査官が解説!②

Thumb mini 7c357d1771
コラム

【コラム】江口寿史展|デニーズのメニューブック(西日本新聞「春秋」より)

Thumb mini 08cb98bf22
コラム

ピリカ愛が止まらない /旧石器時代の大石器工房 ピリカ遺跡/「発掘された日本列島2024」展の見どころを文化庁・文化財調査官が解説!①

特集記事をもっと見る