江口寿史展
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福岡アジア美術館
2022/03/16 |
福岡のアート界で「あしながおじさん」と呼ばれた男性が2月末、95歳で死去した。2000年、福岡市中央区那の津の倉庫を借りて作ったアトリエ「3号倉庫」を若手芸術家に無償提供し、匿名で援助を続けた同市の篤志家桑野義政さん。文化が不要不急とされがちな社会で、芸術の灯を絶やさぬようにと願った故人の志を継ごうと、遺族が正体を明かした。志の背景には平和への思いがあった。
「若手の画家を支援したい」。1999年、桑野さんは同市・天神のギャラリー「とわーる」(2020年閉廊)で初対面のオーナーに切り出した。「文化と若者を未来につなぎたい」。オーナーは熱い思いをくみとり、公募で選んだ作家に最長3年間、制作の場を提供するアトリエ設立が決まった。大分出身の美術家風倉匠(しょう)さん(1936~2007)など有志がボランティアで運営し、若手作家に並走。11年に閉鎖されるまで約10年間続き、計24人が利用した。支援額は5千万円超。桑野さんは支援を受ける作家にも顔すら明かさなかった。
桑野さんは山登りが趣味の税理士。支援のきっかけは、美術家で美術講師だった息子の桑野進さん(67)から、学習指導要領改定で美術の授業数が削減されると聞いたことだった。進さんによると、桑野さんは中学時代に、厳しい軍事教練を受けた世代。戦闘と関係ない花の絵を描かせてくれる美術の授業が数少ない楽しみだったという。芸術科目を軽んじる教育課程の変化が戦前に重なり、「居ても立ってもいられなかったのでは」と進さんは推し量る。
美大を卒業しても資金が壁になり制作を諦める人は多い。福岡を拠点に展覧会などを企画する宮本初音さんは「発展途上の作家を面白がって育てる、まれな場所だった」と振り返り、「3号倉庫」のような個人支援の実践を評価する。
「あしながおじさんが、創作を続ける覚悟と夢をくれた」。「3号倉庫」を3年間利用した同市の美術家成田鐘哲さん(50)は感謝する。「頂いたものは大きい。何をなすべきか考え続けている」。成田さんもアーティスト活動と並行し、美術教室で後進を育て、子ども食堂などを開くNPO法人代表を務める。
戦闘より花の絵を好んだ少年時代からの平和への思いを胸に、芸術家を支援した「あしながおじさん」。その精神は次世代にバトンタッチされた。 (川口史帆)
(2022年3月10日付西日本新聞朝刊に掲載)
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