九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  文学を描く 美術を読む 芥川と漱石、菅虎雄 <1> 二人の文豪つないだ書 久留米市美術館【コラム】

文学を描く 美術を読む 芥川と漱石、菅虎雄 <1> 二人の文豪つないだ書 久留米市美術館【コラム】

2023/12/20 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 3点の書がある。夏目漱石が小説「吾輩は猫である」を執筆した書斎に後年、家主である旧友が掲げた扁額(へんがく)「我猫庵(がびょうあん)」。芥川龍之介が自らの書斎に名付け、掲げた「我鬼窟(がきくつ)」。そして、こちらは見覚えがあるだろう。芥川の小説「羅生門」の題字。わずかに平たくつぶれた字で、まがまがしい雰囲気を醸す。

菅虎雄「我猫庵」(博物館明治村蔵)
菅虎雄「我鬼窟」(日本近代文学館蔵、1月3日より展示)
菅虎雄「羅生門」題字
(山梨県立文学館蔵、1月3日より展示)

 いずれも揮毫(きごう)したのは、一人のドイツ語学者だ。

 福岡県・久留米出身の菅虎雄(1864~1943)。菅は漱石と第一高等中学(現東大)の同窓で、卒業後に親睦を深めた。

 菅は、漱石を愛媛県尋常中(現松山東高)や第五高(現熊本大)の英語教員として推薦した。菅の後押しがなければ、松山が舞台の「坊っちゃん」や、小天(おあま)温泉(熊本県玉名市)がモデルの「草枕」なども生まれ得なかったと言える。

 書をたしなんだ菅への揮毫依頼は多く、他にも漱石の「文学評論」や講演集「社会と自分」、芥川の「傀儡師(かいらいし)」の題字を手がけた。

 また芥川は一高で菅に学び、菅の息子の家庭教師を務めたほどの間柄だ。漱石を「先生」と慕い、繰り返し文章にも書いた芥川。2人の作家をさらに強く結ぶかのように、力強い書の存在がある。

      ◇
 
 久留米市美術館で開催中(2024年1月28日まで)の企画展「芥川龍之介と美の世界 二人の先達―夏目漱石、菅虎雄」。漱石の親友だった菅虎雄が現在の久留米市出身という縁から、同館が企画したものだ。文学と美術。異分野ではあるが、小説の作品世界や作家の創作姿勢が「美術」を通すことで異なる角度から見えてくる。文学と美術との間を行き来してみたい。

=(12月16日付西日本新聞朝刊に掲載)=

===================================================

芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 2024年1月28日(日)まで、久留米市野中町の市美術館=0942(39)1131。西日本新聞社など主催。一般1200円、65歳以上900円、大学生600円。高校生以下無料。

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini 070f2343ce

江口寿史展
EGUCHI in ASIA

2024/11/09(土) 〜 2025/01/12(日)
福岡アジア美術館

Thumb mini 199fb1a74c

挂甲の武人 国宝指定50周年記念/九州国立博物館開館20周年記念/NHK放送100年/朝日新聞西部本社発刊90周年記念
特別展「はにわ」

2025/01/21(火) 〜 2025/05/11(日)
九州国立博物館

Thumb mini e6fdc72059
終了間近

連載15周年突破記念 超!弱虫ペダル展

2024/10/31(木) 〜 2024/11/25(月)
大丸福岡天神店 本館8階催場

Thumb mini cade877eef
終了間近

小田原のどかつなぎプロジェクト2024成果展
小田原のどか 近代を彫刻/超克する
—津奈木・水俣編

2024/09/07(土) 〜 2024/11/24(日)
つなぎ美術館

Thumb mini cbbf457e32

最後の浮世絵師
月岡芳年展

2024/10/26(土) 〜 2024/12/01(日)
九州芸文館

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini 7d1fa6a898
コラム

「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」展【学芸員コラム】(その3)筆跡七変化! 芥川の手紙と原稿

Thumb mini 1dbc4f3874
コラム

「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」展【学芸員コラム】(その2)漱石、芥川 ‥そして第三の男、菅虎雄(二)

Thumb mini 85765b6ab4
コラム

「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」展【学芸員コラム】(その1)漱石、芥川 ‥そして第三の男、菅虎雄(一)

Thumb mini 7d4ae33efb
コラム

文学を描く 美術を読む 芥川と漱石、菅虎雄 <3> 小説家が突く絵の本質 久留米市美術館【コラム】

Thumb mini 09b94817ac
コラム

【コラム】海に捧げた祈り 特別展「博多のみほとけ」㊤ 独自の表現に込めた思い

特集記事をもっと見る