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「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」展【学芸員コラム】(その3)筆跡七変化! 芥川の手紙と原稿

2023/12/19 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館では、大正時代を象徴する作家・芥川龍之介(1892-1927)、明治の文豪・夏目漱石(1867-1916)、漱石の古い親友で、芥川にとっては高校時代のドイツ語の先生であった菅虎雄(久留米出身、1864-1943)も含めた三人の関係に注目する「芥川龍之介と美の世界 二人の先達─夏目漱石、菅虎雄 」を開催中です。
 禅や書に精通した菅虎雄と二人の文豪との交流を辿りつつ、芥川の美意識の形成に深くかかわる原稿や書籍、美術作品などを通して、三人の知られざる関係を解き明かします。
 
 本連載では、久留米市美術館の佐々木奈美子学芸員から、3回にわたって見どころを紹介していただきます。

1回目はこちら
2回目はこちら

*****

 芥川龍之介をめぐる今回の展覧会では、夏目漱石や菅虎雄との知られざる関係や、芥川の美術に対するスタンスなどを紐解くために、各地の文学館、資料館のご厚意で書簡や原稿を多数お借りしています。活字では均質になってしまう本人の筆遣いを間近に見られるのは実に興味深く、文学系の展示の醍醐味ともいえます。

 中でも今回、目をみはったのは芥川龍之介の筆跡でした。本展では書簡類や原稿を展示し、原稿には「鼻」「芋粥」といった初期作品から「歯車」「或阿呆の一生」といった晩年まであるのですが、色々な書き方の字が混じっていて到底一人の人間が書いたとは思えないほどです。

芥川龍之介 菅虎雄宛書簡 1913年11月17日 山梨県立文学館 *1期(現在はパネルを展示)

 しばらく首をひねって、勝手な想像ですが、ひょっとすると手紙の文字は相手への関心や敬意が形に表われてしまっているのではないかと考えるようになりました。漱石との間で原稿用紙を便箋にしたやり取りなどは肩肘はらない感じですが、親友の井川恭に宛てて巻紙に筆で書いたものは、なんだか芥川が漱石からもらった達筆の手紙にちょっと似ています。同じ井川宛てでも伝えたいことがたくさんある時は、数枚の紙の両面にびっちり書いたりと、全く様子が違います。菅虎雄の家を訪ねた翌日の礼状は、前夜見せてもらった法帖に影響されたのか、一文字一文字がかっちりと四角くて、まるで文学青年が自筆で「六朝風フォント」を書いてみたようです。コミュニケーションは相手と呼吸を合わせるものとはいえ、まさに変幻自在。

芥川龍之介「或阿呆の一生」草稿 1927年6月20日 山梨県立文学館 *3期

 では、差し出す相手のいない小説原稿の方はどうでしょう。こちらもまた、それぞれで文字が違うのです。たとえば、初期は大きめの字で書かれていますが、後半生になるにつれて伸びやかさが薄れ、遺作の頃は一文字ずつ絞り出したような小さい字になります。手紙とは違い小説を書くのは自己との対話であることを考えると、その時の意識や状態が文字にそのまま反映されているのかもしれません。

 さて、芥川は器用なのか不器用なのか、素直なのか複雑なのか。皆さんはどのようにご覧になるでしょうか。

※本展出品の書簡、原稿類は作品保護のため3期に分けて展示しています。

佐々木奈美子(久留米市美術館)

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