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瓦のデザインを読む ~陸奥国分寺補修瓦の謎/「発掘された日本列島2024」展の見どころを文化庁・文化財調査官が解説!③

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アルトネ編集部
2025/01/27
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福岡県大野城市の大野城心のふるさと館で開催中の展覧会「発掘された日本列島2024」。日本各地の発掘調査で注目された出土品を集めた本展の見どころを紹介する本コラムもいよいよ最後となります。

本展の企画に関わった文化庁の文化財調査官が、それぞれのイチ押しの遺跡や出土品など見どころ紹介、第3回目は調査官・長直信(ちょう・なおのぶ)さんです。

◇◇

列島展で展示する古代(飛鳥時代から平安時代)の展示コーナーには、「瓦」が出品される機会が多く、ここ数年も常連の展示物です。今回も奈良県と群馬県より奈良時代の瓦が、宮城県より平安時代の瓦が出品されています。縄文土器や埴輪のような造形色豊かな遺物と比較して、鑑賞ポイントがつかみにくいため、展示ケース前では素通りされることもしばしばですが、屋根の軒を飾る「軒瓦」の文様に注目すると、時代や地域によって違いがあることが分かります。軒瓦には一定の意味をもったデザインが施されていますが、調査研究を深めることで、デザインを採用した歴史的な背景を具体的に説明できる瓦も存在します。その具体例として、九州から遠く離れた宮城県仙台市の穴田東窯跡及び陸奥国分寺・国分尼寺跡から出土した軒丸瓦に秘められた歴史的背景について紹介します。

宮城県仙台市の穴田東窯跡及び陸奥国分寺・国分尼寺跡の位置

遺跡から出土した軒丸瓦の特徴は、「宝相華文」という想像上の植物の花をデザインした点にあります。このデザインは当時の首都平安京には見られず、陸奥国(現在の岩手、宮城、福島、青森・秋田県の一部)内でも類例のない全く新しいものです。瓦の年代は平安時代前半(9世紀後半)で、類似するデザインの瓦は当時朝鮮半島を統一していた新羅(統一新羅668~900年)にあることが分かっています。遠く離れた朝鮮半島の瓦のデザインがなぜ9世紀後半に陸奥国において、採用されたのでしょうか。

宝相華文軒丸瓦。この文様の系譜は朝鮮半島に求められ、復興の瓦生産に
新羅人が関わったことをうかがわせる。直径19.9㌢
仙台市教育委員会提供

今から約1150年前の貞観11(869)年5月26日、大地震が陸奥国(宮城、福島県)を襲いました。当時の正史『日本三代実録』はその様子を「城の門や倉庫などの建物の多くが倒壊し、また津波が城下にまで及び、数多くの人が溺死した」と記しており、実際の発掘調査でも津波の痕跡が確認されています。朝廷は多賀城(陸奥国の行政の中心地)や国分寺などの国の重要機関を復興するため、地震発生の翌年、瓦製作技術に長けた職人を陸奥国に派遣し、瓦生産に当たらせます。『日本三代実録』には、「潤清、長焉、真平等は才、瓦を造るに長けたり。陸奥国の府を修理せる料の瓦を造る事に預らしめ、其の道に長けたる者をして相従いて伝習せしむ。」と記されています。この「潤清」とは新羅の商人であり、大宰府管内に居住し交易に従事中、貞観11年に租税用の綿を略奪したとの嫌疑を受けて逮捕され、翌年真平ら9人とともに陸奥に強制移住させられた人物です。潤清らは瓦造りを得意としていたことから、復旧瓦の生産に指導的立場で従事することになったようです。これらの記事と瓦の特徴から、震災復興に伴い多賀城や国分寺を補修するための瓦造りには新羅人が関与し、これにより瓦デザインが大きく変更されたと考えられます。
ただし、軒丸瓦と同時に製作された軒平瓦は新羅のデザインとは大きく異なり、製作技法も新羅に類似するものから類似しないものまで多様です。当時、多賀城等の造瓦組織と新羅人瓦工とが独自性を保ちつつ、時には一体に作業していたことがうかがえます。また、復興を最優先に急いだ多賀城の瓦はデザインが比較的統一的で精緻であるのに対して、国分寺の瓦は文様の種類が多様化し、文様表現にも退化が見られ、潤清ら新羅人瓦工が直接関与した痕跡が次第に薄くなることも指摘されています。瓦たちは文献史料に記されていない復興過程の実態をも教えてくれるのです。

連珠文軒平瓦。瓦の当面。文様をよく見ると、珠文の上端部が途切れている。幅7.6㌢、長さ20.8㌢
仙台市教育委員会提供

このように、陸奥国分寺跡や穴田東窯跡で出土した瓦は、貞観地震の復興に関わる遺物であり、史料に記された未曽有の災害への対応を具体的に知ることができる重要なものです。本資料は、直径20㌢とやや大ぶりな瓦で、展示ケースの中で一定の存在感を放っています。役に立たないもの、価値のないものを「瓦礫(がれき)」と表現することがありますが、瓦のデザインを読み解くことでその歴史的な背景が明らかになり、地域や日本の歴史を語る貴重な証人となります。展示ケースの前でぜひじっくり鑑賞いただけると幸いです。

穴田東窯跡で検出された1号窯の焚き口。大量の瓦を生産し、貞観地震からの復興を支えた窯
仙台市教育委員会提供

執筆者
長直信(ちょう・なおのぶ)
文化庁文化財第二課埋蔵文化財部門

千葉県富津市生まれ、福岡県太宰府市育ち。2004年福岡大学大学院博士課程修了後、太宰府市教育委員会、大分市教育委員会を経て22年から現職。専門は古代、中世。趣味は仕事、キャンプ。

◇◇

大野城こころのふるさと館 令和6年度冬季特別展「発掘された日本列島2024」

会期   2025年1月5日(日) 〜 2月16日(日)

会場   大野城心のふるさと館(福岡県大野城市)

開館時間 9時~17時 ※最終入場は閉館30分前まで

休館日  月曜 ※祝日、振替休日の場合は開館、翌平日

料金   一般400円、高校生以下無料

展覧会公式サイトはこちら→

冬季特別展「発掘された日本列島 2024」 - 大野城心のふるさと館

 

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