江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
2018/09/11 |
人々の声や風の音が聞こえてきそうな細密なアニメーションの背景画の美は、登場人物や物語と切り離し、独立した「作品」として鑑賞してこそ本質が理解できる。夏の光が差し込むゴーヤー棚の庭や、踏切の向こうに続く長い坂道と上空に広がる夏の雲。透明感の中に湿度を含んだ数々の絵は、見る人の想像力と記憶を刺激し、それぞれに自分だけの物語を想起させる。
宮崎駿や高畑勲、細田守といった人気アニメーション映画監督の作品で美術監督を務めた山本二三(にぞう)さん(65)=長崎県五島市出身=の仕事を振り返る企画展「山本二三展 日本のアニメーション美術の創造者」が、熊本市中央区の熊本県立美術館で開催されている。
アニメーションの背景画の世界をリードしてきた立役者の一人。24歳で宮崎駿さんのテレビアニメ「未来少年コナン」の美術監督に抜てきされ、各時代を代表する名作に携わってきた。「天空の城ラピュタ」「火垂るの墓」「もののけ姫」「時をかける少女」などで使用された背景画を中心に、初期から現在までの原画約220点が並ぶ。
今や日本を代表する文化の一つとして世界が認知するアニメーション。質の高い映像世界を支える一つは、過去・現在・未来の世界だけでなく、登場人物たちの心象風景までも描き出す背景美術だろう。
例えば、宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」(1997年)。本人が「死んだら棺おけに入れてほしい」と言ったほど、精力を尽くして描いた「シシ神の森」の背景画は、圧倒的な描き込みによって細部にまで生命が宿り、荘厳な気配が張り詰める。
作中のリアリティーと物語の世界観を壊さないように考証を尽くす。作品の設定に合わせて、その土地に実際に生えている草木を調べ、地域色が出る民家は屋根の造りなどにこだわる。一つ一つの積み重ねによってリアリティーを作品に充満させてきた。
山本さんの背景画の特徴は湿度の高さだ。特に光の輝きと柔らかな表情を見せるボリューム感ある雲の描写は秀逸で「二三雲」と呼ばれている。本人は「故郷の五島で生まれ育った環境が大きく影響している」と分析している。
手描きにもこだわってきた。だが、予算がかかる手描きの背景画はいまや「絶滅危惧種」。アニメーション美術はいまだに社会的に認知が低く、経済的にも肉体的にも厳しい。山本さんは本企画の図録掲載のインタビューで「映画がヒットしても美術作家などのスタッフにはリターンがないのが残念ながら現在の社会的状況」と指摘する。
アニメーション美術が新たな文化として社会に定着していくのか。足がかりを切り開いてきた山本さんの背景画が問いかけている。(佐々木直樹)人々の声や風の音が聞こえてきそうな細密なアニメーションの背景画の美は、登場人物や物語と切り離し、独立した「作品」として鑑賞してこそ本質が理解できる。夏の光が差し込むゴーヤー棚の庭や、踏切の向こうに続く長い坂道と上空に広がる夏の雲。透明感の中に湿度を含んだ数々の絵は、見る人の想像力と記憶を刺激し、それぞれに自分だけの物語を想起させる。(佐々木直樹)=9月7日西日本新聞朝刊に掲載=
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