京都・醍醐寺展 -真言密教の宇宙-
2019/01/29(火) 〜 2019/03/24(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
2019/02/28 |
仏像イラストレーターとして仏像関連の著書を多数出版している田中ひろみさんに、特別展「京都・醍醐寺-真言密教の宇宙-」で展示されている作品からお気に入りの仏像3点を選んでいただき、イラスト付きでご紹介いたします。
① かわいいリボンの結び目 重要文化財《如意輪観音坐像》
如意輪観音は、腕が6本で片膝を立て両足の裏を合わせ、アンニュイに頰づえをついた姿で表されることが多い。玉ネギのような先のとがった形の、どんな願いもかなえてくれるという宝の玉「如意宝珠」と、釈迦(しゃか)や仏教を象徴する「法輪」を手に持つ。如意宝珠の「如意」と、法輪の「輪」が如意輪観音の名前の由来だ。他の手にはハスの花のつぼみや数珠を持つ。
醍醐寺の如意輪観音坐像は丸みを帯びた顔をしていて、目鼻口は顔の中心部に寄っている。顔に対して体は細身で、腕も太くない。高く結い上げた髪には花の飾りのついた宝冠を被り、胸にはネックレス、腕には腕輪をつけ、全身金色に輝きゴージャスなたたずまいをされいてる。おなかにあるリボンの形の結び目がかわいらしく、とても色っぽくて優美な像だ。
弘法大師空海の孫弟子にあたる聖宝(しょうぼう)が笠取山頂に広がる上醍醐にお堂を建て、如意輪観音と准胝(じゅんでい)観音を祀った。それが醍醐寺の始まりとされる。そして、如意輪観音への信仰は、代々の座主に受け継がれた。本展の作品は醍醐寺第1世座主の観賢(かんげん)が関わって10世紀に制作されたとされる作品で、後に第14世座主の勝覚(しょうかく)によって清滝(せいりゅう)宮の社殿に祀られたという。
② 生きているような美しい衣 国宝《虚空蔵菩薩立像》
醍醐寺の虚空蔵(こくうぞう)菩薩(ぼさつ)立像は9世紀に造られた一木造の高さ51・5㌢の小ぶりな像だ。醍醐寺に現存する仏像の中では最も古い像とされる。この木像は長い間、「聖観音像」と見なされていた。近年の調査と研究で「虚空蔵菩薩」であることが判明。2015年に重要文化財から国宝に指定され、東京国立博物館に寄託されていた本作は醍醐寺に戻された。
虚空蔵菩薩は虚空(広大な宇宙のような無限)の知恵と慈悲を持ち、知恵や知識を人々に授けてくれるとされる。弘法大師空海も虚空蔵菩薩を本尊として、記憶力増進のための修法(すほう)を行ったという。
この立像は、衣のひだが深く細かくて美しい。うねうねとし、まるで布自体が生きてるようだ。両手にかかる細い布の「天衣(てんね)」の右先がくるっと巻かれる様子もすばらしい。
お顔は四角く、体に対して大きめでスタイルがいいとは言えない。腰はキュッとくびれているが、横から見るとすごく厚みがある。目鼻口は中心に寄っている。鼻筋は通り、目は切れ長でつり目気味だが、口元は優しく微笑しているようで怖い印象はない。とても高貴で、重厚な感じがする像だ。
③ 愛嬌ある水牛のファンに《大威徳明王像》(重要文化財「五大明王像のうち」)
醍醐寺の「五大明王」の中で、水牛に乗った大威徳明王が一番好きだ。六つの顔と腕と足を持つ。六つの顔は六道(輪廻転生(りんねてんしょう)する6種の世界)を見渡す役目を持つ。6本の腕でいろいろな武器を持って仏法を守り、6本の足で六波羅蜜(ろくはらみつ)(大乗仏教における6種の修行)を歩み続ける決意を表しているという。
大威徳は「閻魔(えんま)を倒す者」という意味。表情は牙をむき出し、眉と目をつり上げ、髪の毛を逆立たせ、怒っている。6面の顔のおでこにも目があり、どれも飛び出しそうな迫力がある。鼻はどっしりと大きい。なかなか個性的な姿だ。
この明王が乗っている、くりっと丸い目を持ち、大きなツノを持つ水牛がとってもかわいい。水牛は神の使いでもあり、あらゆる障害をものともせず、自由に歩き回ることを表しているという。でも、この水牛、かわいすぎてそんなにパワーがあるようには見えない。一般的な大威徳明王像の水牛は座っており、立っているのは珍しい。しかも足は細く、大威徳明王を乗せて歩くのは気の毒な感じもする。でも、水牛の口元をみるとほほ笑んでいるようなのでつらくはないようだ。愛嬌があってチャーミングな水牛のファンになった。
仏像イラストレーター・田中ひろみ
大阪府出身、埼玉県在住。女子の仏教レジャーサークルの「丸の内はんにゃ会」代表。
京都の三十三間堂で仏像に恋に落ちて以来、仏像ラブが止まらない。「仏像、大好き!」「拝んでしあわせ奈良の仏像100」「心やすらぐ仏像なぞり描き」「クイズで入門 日本の仏像」など、仏像関連の著書多数。新聞や雑誌でのコラムも執筆しています。
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