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ビルの形借りて描く街の記憶 大竹伸朗「ビル景」展 6/16まで熊本市現代美術館 【コラム】

2019/05/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

街の喧騒(けんそう)が聞こえた気がした。中心市街地にある美術館とはいえ、それが空耳だとは分かっている。それでも壁を埋め尽くさんばかりの作品群と向き合うと、かつて訪れたどこかの街の記憶が立ち上がる。京都のような洗練された古都ではない。混沌(こんとん)とした街の情景だ。雑居ビルが立ち並ぶ新宿や池袋の裏路地のような。クラクションの音や行き交う人たちのかまびすしい声が飛び交う雑踏に迷い込んだような錯覚を覚える。

大竹伸朗≪放棄地帯≫ 2019年
© Shinro Ohtake, Courtesy of Take Ninagawa, Photo by Kei Okano

現代美術家の大竹伸朗さんが1970年代後半から継続しているシリーズ絵画「ビル景」に焦点を当てた展覧会が、熊本市現代美術館で開かれている。40年にわたって断続的に制作してきた作品群の全貌を明らかにするため、未発表作から最新作まで約830点から507点を展示している。

大竹さんは80年代から作品を発表し始め、絵画を基本に音や写真、印刷物、立体などを自在に組み合わせ、多彩な作品を生みだしてきた。時間の蓄積や記憶をテーマに、街角や路上で集めたさまざまなものによるコラージュ作品などは国内外で高く評価されている。

公立美術館ではキャリアを通じてほぼ初めてとなる絵画のみの構成。密度の濃い展示を目の当たりにし、優れた画家であることを再認識した。勢いのある線で描いた即興性の高いドローイングの連作やキャンバスに描いた油絵から、人々の営みが醸す街の騒々しさや匂(にお)い、熱が立体的に浮かび上がってくる。

洋画家の野見山暁治さんはかつて、絵について「山の形を借りてその大きさをキャンバスに描いてみせること」と語った。その言をアレンジすれば、ビル景は「ビルの形を借りて都市の体温を描いている」とも言える。ビルという建造物が本来持つ存在感を超えて、作家のまなざしが大きく反映されている。

作品タイトルには世界各国の都市名を含むものもあるが、その街の現実の風景をそのまま描いたものは、ほぼないという。二つの高層ビルと飛行機を描いた「ビルと飛行機」のように、2001年9月に発生した米中枢同時テロを想起させる作品もある。大竹さんが訪れた街で擦過傷のように刻まれたいくつもの記憶の断片が混じり合い、大竹さんの内面に反応し、ビルという形に昇華して表出した仮想都市の姿だ。

大竹さんは、1979年から年代前半にかけて香港をたびたび訪れた。その体験が、モチーフとしてビルを意識し始めたきっかけだ。会場内に記したテキストでこう振り返っている。
「自分を包み込む香港の空気や湿気、熱波、匂いやノイズすべてを絵の中に閉じ込めたいと思った」
鉛筆で一気に描いた「窓からのシーメンス・ビル、銅鑼湾」はシリーズの原型といえる。

大竹さんは55年、東京生まれ。高度経済成長期に急速なスピードで戦後の街の原型が現れ始めた時期に育った。その原体験がビルと結びついているのか。他の作品と比べてもけれん味がなく、叙情的な本シリーズの作品群はそんな想像をかき立てる。

建物が再開発や大災害で姿を消しても、人々の内側にはそれぞれに街の記憶が残り、それが唯一無二の風景を成す。会場の熊本もまた熊本地震によって街の姿が大きく変わった。それは地震から3年が経過した今も現在進行形である。大竹伸朗個人が訪ねた街の記憶の残像を閉じ込め、形にした「ビル景」は、同時に鑑賞者それぞれの心の中にある記憶を呼び覚まし、新たな街の風景を描き出す力を与えてくれていた。(佐々木直樹)=5月9日 西日本新聞朝刊に掲載=

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