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室町将軍展 見直し進む東山文化論 寄稿 呉座勇一【コラム】

2019/08/13 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 九州国立博物館で特別展「室町将軍 戦乱と美の足利十五代」が開催中だが、室町時代の文化というと、「東山文化」という言葉を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。
 畳・障子・床の間などから構成される和室、醬油(しょうゆ)や砂糖によって調味される和食、そして茶の湯や生け花-これら日本人の生活文化の源流と考えられてきたのが、室町幕府8代将軍足利義政の時代に花開いた東山文化である。東山文化という呼称は戦前から存在し、そこでは中国文化の影響を脱した純日本風の文化という要素が強調された。
 たとえば歴史学者の芳賀幸四郎が著した『東山文化の研究』(1945年)は「能楽・茶の湯・生花・庭園・水墨画など、今日、日本的芸術の粋とされるものは多くこの時代に成立し、書院造りをはじめ今日の衣食住の生活様式ないし礼儀作法等は、この時代にほぼ形を整えたのである」と主張している。
 こうした理解の前提には、北山文化と東山文化の対比がある。北山文化は3代将軍足利義満(義政の祖父)の時代の文化である。義満の邸宅が北山山荘(現在の金閣)、義政の邸宅が東山山荘(現在の銀閣)だったため、北山文化・東山文化という呼称が生まれた。

足利義政が建立した慈照寺(銀閣寺)

 金閣と銀閣の比較を軸に、豪奢(ごうしゃ)華麗で唐風の北山文化と簡素幽玄で和風の東山文化は好対照の文化と捉えられた。さらに北山文化・東山文化は、義満と義政という2人の将軍の個性とも結びつけられた。歴史学者の笹川種郎(臨風)は「文化史上に於ける東山時代」という論文(1912年)で、「義満は豪気な政治的気質を帯びて現世に執着していたが、義政は恬淡(てんたん)な浮き世離れをした風流人であった」と述べ、義満の好みが北山文化に、義政の好みが東山文化に反映されたと論じている。
 しかしその後、学界ではこうした北山文化論・東山文化論への見直しが進んだ。拙著『応仁の乱』でも触れたように、足利義政は決して政治を捨て、趣味の世界に生きた厭世(えんせい)的な文化人将軍ではない。実際の義政は応仁の乱を終結させるべく努力しているし、将軍職を息子の義尚に譲った後も、権力を手放すことなく死の直前まで政治に関わり続けた。
 東山山荘での義政の隠居生活も必ずしも簡素枯淡だったわけではない。確かに銀閣は一見すると「わび・さび」の極致に映る。けれども銀閣の東求堂同仁斎は中国から輸入された高価な書画・工芸品などを飾るための展示空間だった。建築史学者の川上貢は著書『銀閣寺』で、東山山荘は「現世における享楽のための演出された生活空間」であると指摘している。
 近年の学界では、東山時代より前の応永・永享期(4代将軍足利義持~6代将軍足利義教の時代)に注目が集まっている。従来、北山文化と東山文化の間に挟まれて研究が手薄だったこの時代の文化こそが室町文化の確立期であるという認識が広がりつつある。
以上を踏まえて九博の特別展を鑑賞すると、より多くの発見があると思う。=8月5日 西日本新聞朝刊に掲載=

呉座 勇一 (ござ・ゆういち)
国際日本文化研究センター助教。1980年、東京都生まれ。東京大文学部卒。同大大学院人文社会系研究科博士課程修了。専門は日本中世史。「戦争の日本中世史」で角川財団学芸賞を受賞。他の著書に「応仁の乱-戦国時代を生んだ大乱」「一揆の原理」「日本中世の領主一揆」など。

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