九州、山口エリアの展覧会情報&
アートカルチャーWEBマガジン

ARTNE ›  FEATURE ›  コラム ›  「コレクション」に改めて光【九州美術回顧2019コラム】

「コレクション」に改めて光【九州美術回顧2019コラム】

2019/12/24 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 美術館の存在感にあらためて触れ、その役割を考えるには絶好の機会だった。今年3月、2年半に及ぶ大規模改修を終えた福岡市美術館(同市中央区)がリニューアルオープンした。1979年の開館から40周年の節目でもあった。3~5月に開催した記念の展覧会は所蔵コレクションを前面に押し出し、ダリ、ミロ、草間彌生など、館の歴史とともに収集を重ねた「オールスター」がそろい踏みした。

改修後の福岡市美術館内=2019年5月


  コレクションの紹介と言うと地味な印象は否めない。しかし、名作の鑑賞機会を担保する美術館の仕事は、時代が移り変わっても市民の暮らしを豊かにしてくれるものだと実感した。
  国内の公立美術館建設は1990年代に集中している。今後、改修や、建て替えを迎える館も増えるだろう。文化予算が限られる中で美術館を魅力的にするために、築き上げた財産ともいえるコレクションの見せ方が鍵になる。
  開館20周年を記念した福岡アジア美術館(福岡市博多区)の「アジア美術、100年の旅」(10~11月)も、アジア各国・地域の特色を表す所蔵品を一堂に集め、同館のコンセプトを強く発信するものだった。
 強烈な存在感を放ったのは、大分県別府市に毎年異なるアーティストを招聘(しょうへい)する芸術祭「in BEPPU」(9~11月)だ。今年招聘された現代芸術家の関口光太郎さんは、新聞紙と粘着テープで「混浴する世界」を表現する巨大な造形物を発表。昨年までの作家のように世界的な知名度を誇るわけではないものの、滞在制作や市民ワークショップなど、例年と異なる趣向で地域のアートイベントに新風を吹き込んだ。

全てが粘着テープと新聞紙で作られた関口光太郎inBEPPUの会場

  長崎県美術館(長崎市)では現代美術の巨匠、クリスチャン・ボルタンスキーさんの回顧展「Lifetime」(来年1月まで)を開催。希代の作家の仕事を九州で見られる、またとない機会になった。
  巨匠と言えば、大分市出身の建築家磯崎新さん(88)は、建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を受賞。大分市美術館は9~11月、磯崎さんの仕事を特別展で紹介した。

 

「不自由展」議論受け社会的役割も宿題に

 

全国的には、愛知県での国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(8~10月)と、その企画展「表現の不自由展・その後」をめぐり、公権力による芸術表現への介入が議論を呼んだ。従軍慰安婦を象徴する一部の作品が非難され、展示は一時中止に。交付が決まっていた助成を文化庁が不交付とする異例の展開をたどった。
  芸術家が政治的な課題と向き合い、作品の形で意見表明したり、疑問を提示したりすることは、ごく健全なことだと思う。政治課題が山積し、複雑化する中で、美術にはそうした役割がもっと期待されていい。
  改正入管難民法の施行(4月)などを受け、「美術手帖」の12月号は「『移民』の美術」と題した特集を組んだ。海外にルーツを持つアーティストのインタビュー記事を掲載して、社会問題に対して美術が果たせる役割は何かと問い掛けた。来年以降、作家と鑑賞者、それにメディアが、引き続き考えなくてはならない「宿題」だ。 (諏訪部真)=12月20日西日本新聞朝刊に掲載=

おすすめイベント

RECOMMENDED EVENT
Thumb mini d310dce867
終了間近

もしも… 大辻清司の写真と言葉

2024/06/08(土) 〜 2024/07/28(日)
九州産業大学美術館

Thumb mini 394d2ffd6c
終了間近

軽さ・明るさ  Lightness/ Lightness Kanae Ohgi Exhibition
オーギカナエ 個展

2024/07/13(土) 〜 2024/07/28(日)
EUREKA エウレカ

Thumb mini 8505535df2
終了間近

ゆうまち芸術祭 アーティスト・イン・レジデンス プレ事業
ゆうまちアートプロジェクトVol.1 山本愛子 Symbiosis - 回遊する色-

2024/04/27(土) 〜 2024/07/29(月)
iroherb

Thumb mini 8aaeb4a2b5

佐賀新聞創刊140周年記念
立体切り絵SouMaの世界展

2024/07/04(木) 〜 2024/08/04(日)
佐賀県立美術館

Thumb mini 20608978b3

夏休みこども美術館2024
未来にむかって歩くなら?  ”わたしのくつ”をつくってみよう

2024/07/28(日) 〜 2024/08/04(日)
福岡市美術館 1階 アートスタジオ

他の展覧会・イベントを見る

おすすめ記事

RECOMMENDED ARTICLE
Thumb mini f8c347f96e
コラム

《junaida展「IMAGINARIUM」》想像と創造 junaida展㊤ 途切れることのない「道」 長崎県美術館【コラム】

Thumb mini 3d07fcefd4
コラム

「没後100年 富岡鉄斎―最後の文人」展に寄せて【学芸員コラム】

Thumb mini 4434ad4f8b
コラム

剥製が大行進 進化の不思議/8月25日まで、福岡市博物館で「大哺乳類展-わけてつなげて大行進」【コラム】

Thumb mini 29a89b6544
コラム

「わけてつなげて 大哺乳類展」㊦ 違っているのに同系統/福岡市博物館で7月3日から「大哺乳類展-わけてつなげて大行進」【コラム】

Thumb mini 484d08c17b
コラム

「わけてつなげて 大哺乳類展」㊤ そっくりでも別の仲間/福岡市博物館で7月3日から「大哺乳類展-わけてつなげて大行進」【コラム】

特集記事をもっと見る