特別展 世界遺産
ラスコー展
クロマニョン人が見た世界
2017/07/11(火) 〜 2017/09/03(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
木下貴子 2017/08/28 |
九州国立博物館で開催中の特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が見た世界」の関連イベントで、本展監修者の海部陽介氏(国立科学博物館人類史研究グループ長)と、美術ライターであり永青文庫副館長も務める橋本麻里氏によるトークセッション「2万年前の壁画から芸術の起源を考える」が8月5日に開催された。ラスコーの壁画は「原始美術」として必ずや西洋美術史に登場するが、なにゆえこの壁画が美術として扱われるのか、教科書で説明されている以上に知りたいと思う人も多いのではないだろうか。片や人類史のプロフェッショナル、片や日本美術史のプロフェッショナル。分野の異なる2人の視点がクロスしながら、ラスコー壁画と芸術の起源について紐解かれていった。
●トークセッションの前に2人の講演を開催。海部氏が語る「クロマニョン人と芸術」
イベントは2部で構成され、第1部では海部氏と橋本氏それぞれによる20分程度の講演を開催。まずは、海部氏による講演が行われた。
「小さなランプをもって、洞窟の250メートル奥まで入って絵を残す。わざわざ真っ暗な中に入って、こういう不思議なことをやっていた人たちがクロマニョン人です」とクロマニョン人の住んでいた場所、時代背景、ラスコー洞窟の内部構造などを解説していく海部氏。
「ラスコーのすごいところは、洞窟の空間すべてに絵が描かれている。動物だけでも600~800もの数が描かれ、それに加えて色々な謎の記号も描かれています。この空間は写真では絶対に伝えることができません。ですから写真では絶対に体感できないことを、最新技術を使ってみなさんに体感いただくというのが今回の展覧会なのです。洞窟そのものは持ってこれませんが、レプリカならではの仕掛けがあります。実際の洞窟画は色彩画のほか輪郭が線刻されているのですが、それをブラックライトで浮かびあがらせるということを本展で初めてやりました。これが大変評判がよくて」と随所に本展の見どころを入れるなど、話し上手に加えそのPR力にも舌を巻く。
海部氏の講演は、展覧会初日に行われた特別記念講演「クロマニョン人はどこから来たのか?」のいわばダイジェスト版。詳しくはこちらをご覧いただきたい。
●橋本麻里氏が語る「アートとサイエンスのあいだ」
続く、橋本氏による講演。橋本氏は美術の中でも、主に日本工芸・美術、現代美術、デザインを専門とされるが、果たしてラスコーとどのように結び付いていくのだろうか…と思っていたところに、橋本氏が冒頭で流したのは映画『2001年宇宙の旅』の猿人の映像。「クロマニョン人、あるいはそれ以前の存在である類人猿が作りだしたもの。人間がはじめて道具──人工物を作りはじめたときのことから考えてみたいと思ったときにまず浮かんだのがこの映画の映像でした」と話す。
そこで例に挙げられた写真が、展覧会にも出品されている旧石器時代の尖頭器と、iPhoneだ。「尖頭器の表面は非常に薄くて滑らかで、左右対称の美しい形をもつ石器であり、人間がはじめて作りだした人工物=道具です。iPhoneも同じような、まさにモノリスを想起させるような形をしています。当然この形に辿りつくまでに変遷はあるわけですが、石斧、あるいは尖頭器という道具である石器が、60万年ほど前に辿りついた形にどんな特徴があるかというと、『左右対称』だというわけです。道具としての機能を果たすだけであればここまで手の込んだ加工を施し、美しい左右対称を表現する必要はないはずです」。
「この『対称性』は、中国にいようとアメリカにいようと、あるいはアフリカにいようと、人類が文化を越えて共有する最古にして最大公約数的な美の感覚だと言われます。現在のiPhoneに至るまで、もちろんすべてが対称であればいいとされているわけではありませんが、どんな文化圏に生きていても美しいと思える形の一つが対称性なのかなと、私自身も感じています。そこで人類学から私の本来の専門である日本美術史の方に目を向けた時、たとえば日本の美術史は、対称性と非対称性のせめぎ合いの歴史だということもできるのではないかと考えたわけです」。
そこから、話の舞台は日本へ。人工物としての縄文土器にはじまり弥生土器、中世日本で珍重された中国の天目茶碗や青磁を経て、「応仁の乱」以降、規範とされた中国文化を消化した日本文化の洗練の一つの形=わび茶の話までを例に、対称性、非対称性を軸に話が進められ、「工芸もあれば絵画もあり、建築や染織、パフォーマンスもある、あらゆる日本の美術工芸文化が詰まったソフトウェアが茶の湯である……というところまでお話しして、この後の話を海部先生と一緒にしていきたいと思います」と締めた。
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