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クロマニョン人の正体と真実に迫る「世界遺産 ラスコー展」講演会

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大迫章代
2017/07/22
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7月11日に初日を迎えた九州国立博物館の特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が見た世界~」。初日に開催された記念講演会「クロマニョン人はどこから来たのか?」では、本展の監修者である海部陽介氏が、知っておくと展覧会を何倍も楽しめる、クロマニョン人の真の姿や起源について話してくれた。

会場はほぼ満席!

海部氏は、国立科学博物館人類研究部の人類史研究グループ長を務める人類学者。化石などから約200万年におよぶアジアの人類進化・拡散史の研究が専門で、著書に『日本人はどこから来たのか?』(文藝春秋)、『人類がたどってきた道』(NHKブックス)などがある。

本展の監修者、人類学者の海部陽介氏

「本展の主役クロマニョン人はどんな人々だったのか?多くの人が誤解しがちですが、“はじめ人間ギャートルズ”に出てくるような人間でも、ザ・クロマニヨンズ(日本のロックバンド)のシンボルのような猿でもありません。本当のクロマニョン人たちはこんな人たちだったと考えられています。」

クロマニョン人の復元モデル(会場展示より)

「展覧会に来た人からよく、かっこよすぎる、やりすぎじゃないかと言われますが、モデルとなる頭蓋骨もあり、かなり信頼性の高い復元です。もちろん肌の色や髪型などは想像です。格好いい衣装の根拠については後ほどお話します。またヨーロッパでは、ラスコー以外にも300近い壁画が残されています。そう言うと、クロマニョン人たちは洞窟の中に住んでいたと思われがちですが、それも誤解です。比較的明るい洞窟の開口部は使っていましたが、洞窟の中は真っ暗で、風も通りにくく、住むには不便。理由は分かりませんが、彼らはそんな場所にあえて入り芸術表現を行う、ちょっと変わった人たちだったのです」。

「本展は、実物と違わないほど精巧に復元されたラスコーの壁画の数々とともに、クロマニョン人による彫刻や、それを可能にした道具など、彼らの文化や芸術世界を総合的に紹介する展覧会です。では、これらを残したクロマニョン人(4~1万年前)と、それ以前のハイデルベルグ人(60~30万年前)、ネアンデルタール人(40~2万年前)との大きな違いは何でしょう?その一つは彼らが使っていた道具にあります。」

ハイデルベルグ人、ネアンデルタール人、クロマニョン人の頭蓋骨と復元モデル(会場展示より)

「ハイデルベルグ人は素っ裸にハンドアックス(握り斧)、ネアンデルタール人は毛皮をまとい手に槍を持っています。ネアンデルタール人は皮なめしの道具を持ち、石の矢先の着いた槍をつくる接着剤を持っていたことがわかっています。石器の技法もハイデルベルグ人に比べ、ネアンデルタール人の方がずっと進んでいますが、クロマニョン人になるとさらに進化した石刃技法というものになります。まず円柱状の石核を作り、それを薄く割っていくことで、カミソリのような刃(石刃)を大量生産し、それをさらに加工し、彫器にしたり、穴あけ器にしたりと、いろんな用途の道具を作ったのです。」

クロマニョン人の画期的な石刃技法はさまざまな道具を可能にした

「またその多様な石器を使い、動物の骨や角の有効利用することで、角製の銛先のようなさらに複雑な道具や、投槍器のような安全に狩りができる便利な道具を発明し、そのうえ道具に装飾まで施していました。」

機能と造形美を兼ね備えた投槍器

確かに、冒頭に登場したクロマニョン人のオシャレな装いも、壁画やこの装飾へのこだわりを見れば納得。当時は動物の歯や貝殻をビーズとして加工したアクセサリーもあり、復元モデルの女性がかぶっているような帽子は、実際にイタリアでも見つかっている。骨製の縫い針まであり、かなり繊細な縫物も可能だったわけだ。

「骨製の縫い針」(会場展示より)

では、肝心のクロマニョン人の正体は…?

「人類は猿人に始まり、700万年の歴史があります。ラスコー洞窟の壁画は2万年前のクロマニョン人が残したものですが、クロマニョン人自体は4万5000年ほど前に西ヨーロッパに現れたホモ・サピエンス、つまり我々と同じ現生人類です。では高い芸術・文化性をもつホモ・サピエンスのクロマニョン人はどこから来たのか?仮説は2つあり、1つが“多地域進化説”(ヨーロッパや各地で徐々に進化したという説)、もう1つは“アフリカ起源説”(最初から備わっていたという説)です。20年ほどの論争の結果、現在は2番目の“アフリカ起源説”が正しいのではと考えられています。つまり、30万~5万年前の間にアフリカで、高い芸術性と文化性を持った新人(ホモ・サピエンス)が誕生し、彼らが世界中に拡散して、人類の祖先になったのではないか、ということです。だとすれば、これは私たち日本人のルーツを知る上でも極めて興味深い説です。」と海部氏は語る。

15年前は世界各地にいろんな人類がいた。当時ヨーロッパに先住していたのはネアンデルタール人。クロマニョン人はアフリカ移民だった。

最後に、「本展を見れば、クロマニョン人がいかに既存の原始人のイメージとは、かけ離れているかがお分かりいただけると思います。九州会場はここでしか見られない展示もありさらにパワーアップしているので、ぜひ足をお運びください」と海部氏。

旧石器時代にもかかわらず、卓越した芸術センスと高い技術力を持っていたクロマニョン人。その素顔に出会える特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が見た世界~」は、9月3日(日)まで開催中!

 

★海部陽介氏のプロジェクトもチェック!
海部氏は、現在クロマニョン人の時代、日本列島にたどり着いた我々の祖先の航海を再現するべく、クラウドファンディングを立ち上げ「3万年前の航海徹底再現プロジェクト」を実施中。2019年には、台湾→与那国列島への航海を成功させるべく活動しているそう。興味のある方は公式HPでチェックを。

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