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やさしく学ぶ浄土思想 |「浄土九州」展の予備知識に◎【レポート】

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伊勢田美保
2018/10/16
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浄土九州ー九州の浄土教美術ー」が開催中の福岡市博物館で、関連イベントとして、筑紫女学園大学学長の中川正法先生による講演会が行われました。テーマは「仏教における浄土思想」。お話は、ブッダの誕生から、思想が伝承された長い歴史、そのさまざまな解釈など、多岐にわたりました。
前回、一人で会場を巡った私。アートとしては十分に楽しめたものの、正直なところ仏教についての理解不足が否めない!…ということで、この講演会を通し、改めて浄土思想を学び直すことに。今回はその一部を抜粋してご紹介したいと思います。※途中少々、心の声が入りますがどうぞご了承ください

ブッダの生涯と教え
お話は、摩訶不思議なブッダの誕生から。
「ブッダは2500年前、現在でいうネパール南部のルンビニでお生まれになりました。母である女王の右脇腹から生まれたとされ、その様子はさまざまな彫刻で表現されています」。インドでは昔から、世界を支配する聖者は母親の右脇腹から生まれるという伝承があるそうです。
(右脇腹…だいぶ痛そう!)

「ある日お城を出た若きブッダ王子は、病人や老人に会い、人には皆同じくその時が訪れると知らされます。人間の命のありようを知り、本当の幸せとは何かを考えるようになった彼は、修行の道を選択。長い苦行の末、35歳の時に悟りを得ます」。
(35歳とは早いですね!同世代ですがそんな悟り、私にはとても得られる気がしません)

そして教えを説く決意をしたブッダ。初めて5人に説法を行い、弟子とします。これが今日に続く仏教の始まりでした。

 

インドの北部地図。「赤い丸のところはブッダが実際に活動していた地域。これだけ広い地域を歩いておられたんですね」と中川先生

 

「ブッダは手の格好、印相(いんぞう)でいろいろなことを伝えます。
手をかざすポーズは施無畏印(せむいいん)と言って、『怖がらなくていいですよ、安心して。
私の教えを聞けばさまざまな不安や苦しみ、悲しみを超えていけます』という意味です」

ブッダはそれから45年間もの間、たくさんの人に教えを説きます。しかしやがて臨終の時がやってきます。「涅槃」と表現される、あたかも燃料が尽き、ともしびが静かに消え入るような状態に入り、それから生命の火がふっと消え、安らぎと悟りの境地に至り、「入滅」。入滅後も、仏弟子たちはブッダが永遠に実在していると考え、「ストゥーパ」と呼ばれる仏塔の周りに集まり、礼拝と説法を行い、仏教が広まっていったそうです。
(ちなみにブッダが入滅することを「仏滅」と言いますが、カレンダーのアレとは関係ないそうです)

世界遺産にもなっている、大きなストゥーパ

 ブッダが説いたのは、煩悩(執着)こそが苦しみの原因であるということ。自分の内面と真摯に対峙し、修行でその煩悩をなくすことを教えました。そしてそれをもとにして、紀元前後に<大乗仏教>がおこります。
「大乗仏教の大きな特徴は、世界は数多くあり、それぞれの世界に一人の仏がおられるという考え方です。そして大乗仏教を進めていくエンジンとして、『菩薩思想』が生まれます。菩薩とは、悟りを得る前のブッダを指し、大乗仏教においては、菩提(悟りの境地)を求める求道者一般を表す用語となりました」。


では浄土思想とは?
「浄土は、浄(きよ)らかな土(国土)という意味で、漢語で直訳すると<土を浄める>。菩薩が菩薩行として身を置く国土を浄めることを「浄仏国土思想」と言います。そして唐の時代以降、浄土は、主に大乗仏教の如来の一つ、阿弥陀仏の仏国土「極楽」を意味するようになります。極楽は西方に位置するものとされますが、太陽の沈む方向に、命の終わりを重ね合わせたのですね」。

よく彼岸、此岸(しがん)と言いますが、これは、大きな河を挟んで、彼岸は浄らかな悟りの世界、此岸は、苦しみや欲望(煩悩)に満ちた娑婆国土。
「彼岸」など私たちの身近に今も言葉として残っているものが多いんですね。

 

極楽とはこんなにも美しい世界だそうです。天の音楽ってどんなんだろう…いつか聴けますように

「極楽浄土は死後に生まれ変わる場所。生まれ変わることが『往生』であり、修行によって悟りを得た証でもある…。これらは、浄土経典に明記され、インドからやがて日本に伝わり、浄土の教えが広まっていきました」。

そして経典はさまざまに漢訳されてきたと前置きした上で、中川先生はこう続けます。
「お経を訳すというのは、それはそれは壮大なプロジェクトだったと思います。インド語あるいはサンスクリット語で伝わったものが漢訳され、やっとのことで日本に入ったわけですから。皆さん、ぜひ大事にしてください」。
(いや、ほんとに!耳で聞いた音を母国語に変換する大変さは想像に難くありません)


浄土思想の展開
お話の中では、阿弥陀仏の考えの一つ「臨終来迎思想」の説明も印象的でした。
「阿弥陀仏の四十八願(人々を救うために立てた48の誓い)のうちの、第十九願に表されています。ここでは『私が仏になる時、全ての人々が悟りを求める心を起こしてさまざまな功徳を積み、心から私の国に生まれたいと願うなら、その命を終えようとする時、私が多くの聖者たちとともにその人の前に現れましょう』とあります」

この臨終来迎の様子は、さまざまな絵師により来迎図として描かれています。今回の展示でも、善導寺の<阿弥陀聖衆来迎図>など多くの来迎図が展示されています。

〈阿弥陀聖衆来迎図〉福岡県久留米市 大本山善導寺

浄土思想はインドから日本まで長い歴史があり、さまざまな解釈を持つものであると中川先生。「この限られた時間で全てを話すことなど、とてもできない」としながらも、丁寧に紡ぎ出されるその言葉一つ一つを通して、現在に至るまで大切に守り、伝え続けられてきた信仰の奥深さに触れることができました。正直、仏教は難しい!わからない!と思っていましたし、お話を聞きながらも「??」が浮かんでしまう瞬間があったのですが、最低限の予備知識が頭に入った今なら、展覧会をより深く楽しむことができると思いました!

中川先生曰く今回の展覧会は、「九州における浄土美術を展示する素晴らしい取り組み。東京から有名な先生たちがお見えになるのも理解できる」。そのくらい充実した内容とのことです!
さらに、中川先生が学長を務める筑紫女学園は今年111周年目。大学では、100周年記念事業として福岡のお寺にあるさまざまな宝物の調査を続けているそうで、その成果の一端が、展示のラスト「萬行寺の至宝」でも紹介されています。こちらもぜひ注目してお楽しみください!

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