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落語であの世を体験!【レポート】

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伊勢田美保
2018/10/21
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みなさま落語はお好きですか?過日、福岡市博物館の特別展「浄土九州ー九州の浄土教美術ー」関連イベントとして、古典落語「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」が開催されました。展示にも登場する冥土の世界が舞台。演じてくださったのは、田川郡川崎町を中心に活動する川崎亭好朝さんです。今風のネタもふんだんに織り交ぜながらテンポよく進む亡者と鬼、そして閻魔大王の愉快なやりとりに、会場も終始笑いに包まれました。

 ということで今回は、こちらの様子をレポート。「落語の中でも、人の生き死にに関わることがいっぱい出てくるシャレのきつい話。でも考えてみれば普通のことですよね」と好朝さん。「この話はオチがわからないので、もう先に言っときます。『大王飲んで下してしまおう』がオチで、閻魔「大王」と腹下しの薬である「大黄」をかけてます。それ言ったら終わりなんで、頭の片隅に置いておいてください」と前置きし、お話は始まりました。

川崎亭 好朝(かわさきてい・こうちょう)
本職は小学校教員で、芸の上では管理職「こうちょう(校長)」を名乗るアマチュア落語家。田川郡川崎町の演芸集団「川笑一座」主宰。2004年、国民文化祭アマチュア落語全国大会優勝。2015年、社会人落語日本一決定戦準優勝。

主人公はいたって普通の気楽な男。鯖の刺身を食したところあたってしまい、そのままあの世へ。前へ行くもの後から来るもの、額には角帽子(すんぼうし)という三角の布をあてがい歩いています。その中に、知り合いのご隠居を見つけます。

男「ご隠居、なんでこっちに?」
ご隠居「風邪をひいちまってね。裏筋にある〝やまい先生〟のとこに行ってみたんだよ」
男「ダメですよ、あそこヤブ医者ですよ。医者なのに〝やまい〟ってのがおかしいでしょ」
ご隠居「頓服飲んだらスーッとこちらに来ちまった」
男「医者の合わせた薬にあたってこっち来ちゃったってんですか」
ご隠居「まあね。考えてみりゃいつかはこっち来るんだ。医者の薬にあたって来ちまったなんてのは、シャレてると考え直してね、こうやってとぼとぼ歩いてるって具合だよ」
男「だけどあっし達、これからどこ行くんですか?」
ご隠居「そうだねえ、地獄か極楽か。閻魔様のお裁きを受けるんだろうねえ」

 

こうして川岸の「三途の川渡船場」へ。大きな船に仁王立ちになった鬼の船頭が亡者を迎え入れ、長い竿で川の真ん中まで漕ぎつくと、イカリを放り、船を止めました。

鬼「渡し銭出せ」
亡者「え、お金いるの?」
鬼「あったりめえだ。死に方で値段が違ってくるぞ」
亡者「私、腎臓が悪くて死にました。腎臓結石」
鬼「腎臓は…16円。計算根拠?腎臓はおしっこの出にくくなる病。よって、4(し)×4(し)=16。今月から法律が変わって10倍の160円」
亡者「え、なんで変わったの」
鬼「諸物価高騰につき10倍とるようにと閻魔様の御触れが出たんじゃ。閻魔様の御触れ。エンフレじゃ」
亡者「私はあの〜、医者の合わせた薬で死にました」
鬼「気の毒に、それは誤診じゃな。5(ご)×4(しん)=20。200円置いてけ」
亡者「鬼さんあたしはですね、鯖にあたったんで、3(さ)×8(ば)=24。240円置いときます」
鬼「お前が決めるな。俺の楽しみを取りやがって」


ワアワア言いながら向こう岸へ渡りぞろぞろと降りると、人だかり。ここは六堂の辻だそうです。勝手がわからない一行は、観光案内所へ行ってみることにしました。

案内係「どうもいらっしゃいませ。あなた方、こちら初めて?」
亡者「ええ、何べんも来る人はいないと思うんですけども。ちょいと様子を伺いたい。ん?カラフルなユニフォーム着た人がメガフォン持ってやってきますけど、なんかあるんです?」
案内係「ああ、これは祭典ですね。鷹の祭典。あそこ、冥土ドームって言いましてね、今日から〝極楽天イーグルス〟と3連戦ですよ」
亡者「あそこにも、大きい建物がありますけど」
案内係「あ、博物館ね、落語やってますよ。プロよりうまいアマチュア、川崎亭好朝」
亡者「川崎亭好朝って、うちの近所でやってましたよ」
案内係「看板よく見てごらんなさい。〝近日来館〟ってなってるでしょ…」
亡者「…なんだか色々あるんですねえ」

 

念仏を買い求め、閻魔の町の正門へやってきた一行。鉄でできた門が開くと、ぺちゃくちゃ喋っていた一行も口をつぐみ、暗闇にぞろぞろと足音だけが響きます。キラキラ光る浄玻璃の鏡。舌を引き抜く釘抜き。血の付いたノコギリ。罪の重さを測る測り。罪が重いと崩れ落ち地獄へ落ちてしまう紙の橋も渡っています。そして閻魔大王が登場。王と漢字の付いた冠を被り、怖い顔…。

閻魔大王「亡者の者ども、よーく聞け。本来ならばここで厳しい詮議をいたし、罪の重い軽いを調べるが、本日、先代閻魔の1000年忌にあたるをもって特別のはからいである。一芸ある者はこれへ出い。場合によってはその一芸により、極楽へとおし遣わす」
亡者「はい!皿回しをいたします!」

※ここで突然の女性登場とともに、客席へ降りる好朝さん。「これより、大きなお皿をくるくると回してご覧に入れる」「大皿が回りますか回りませんか、回りましたらおなぐさみ、、」

野球バッドやテニスラケット、しまいにはギターまで顔に乗せつつ大皿をくるくるくる…。これには会場も大きな拍手!

そして物語はいよいよ大詰めへ。

「今から言う4人の者以外は皆、極楽へ通って良い」と閻魔様。
4人とは、未熟な医術で治る患者も多数殺した医者。加持祈祷と詐術を行い、人々から金銀をだまし取った山伏。丈夫な歯まで抜いてしまった歯抜き師。そして、ハラハラする芸で人々の命を縮めた軽業師でした。

閻魔大王は鬼に命じ、この4人の亡者を熱湯や針山へやりますが、山伏が水の印を結び「熱湯」をぬるま湯に。「針山」は、丈夫な足裏を持った軽業師が残りの3人を背負い簡単に登ってしまいます。

閻魔大王「けしからん亡者だ。では、人呑鬼(じんどんき)に飲ませてやろう」
亡者「うわ〜怪獣みたいに大きな鬼。あんな石臼みたいな歯でやられたらひとたまりもありませんよ」
亡者(歯抜き師)「大丈夫だよ。あんな歯、俺が抜いてやらあ。任せとけ。おーい鬼さん、あんた随分と虫歯があるみてえだ。その虫歯、抜いてやろうか」
人呑鬼「そうか?なんとなく痛いなとは思っとったんじゃ」
亡者(歯抜き師)「口の中で薬まいて・・手ぬぐいでグッ!」

ぼろぼろぼろぼろ〜

人呑鬼「人を歯抜けにしおったなあ〜〜!ごっくん!」

なんと、人呑鬼の腹に丸呑みにされてしまいました。しかしいたって明るい4人です。

亡者(医者)「ここはひとつ、わしに任せてもらおうか」
亡者「あんたヤブ医者じゃないの」
亡者(医者)「面白いの見せてやる。そこに、紐がぶら下がっとるじゃろ。ぐっと引っ張ってみろ。鬼がくしゃみするから」

ぐっ(へークション!)
亡者(医者)「そこを押すと鬼が腹痛起こすぞ」
ぐっ(アイタタタタ・・)
亡者(医者)「こう押すと笑うぞ」
ぎゅっぎゅっぎゅっ(アッアッアッ)
亡者(医者)「ここを踏むと屁をこく」
ぼんっ(ブーーーー)
亡者(医者)「それから軽業師、上に上がって喉んとこ、がしがしってやれ。鬼がえづくから」
がしがしっ(ウエエエー)


亡者たち「合わせてみんなで一緒にやろうじゃないか。ひのふのみと」
(ウエーーへークション!アイタタタタアッアッアッぼんっブーーーーウエエエ・・)

人呑鬼「なんという亡者ども。お便所行って出してこよ」
亡者たち「出されるもんか。いつまでもここで苦しめてやるんじゃ」
人呑鬼「う〜〜んう〜〜ん!あいつら出てこん〜〜大王様、大王様!」
閻魔大王「なんといたした?」
人呑鬼「こうなったらあんたを飲まなきゃしょうがない」
閻魔大王「わしを飲んでなんとする?」


人呑鬼「大王(大黄)飲んで下してしまおう」

 

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う〜ん鮮やか!好朝さんのアレンジの効いた巧みな話術と、絶妙なタイミングで盛り上げる賑やかなお囃子のおかげで、話の世界にぐんぐん引き込まれ、あっと言う間の1時間でした!
今回出てきたような地獄絵も多数展示される特別展「浄土九州」は、11月4日(日)まで福岡市博物館で開催中です。観覧がまだの方は、こんな楽しい地獄もイメージしながら巡ると、より一層楽しめるかもしれませんね。

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