明治150年記念 特別展
オークラコレクション
-古今の美を収集した、大倉父子の夢-
2018/10/02(火) 〜 2018/12/09(日)
09:30 〜 17:00
九州国立博物館
木下貴子 2018/10/24 |
ARTNE(アルトネ)のニュースやコラムでたびたび情報をお届けしてきたこの秋注目の展覧会「オークラコレクション」が、九州国立博物館にてついに開幕しました。展覧会の魅力や見どころを、記念講演会・会場レポートと3回にわたってお伝えいたします。
第1弾は、10月8日(月・祝)に開催された、九州国立博物館主任研究員・山下善也氏による記念講演会「大倉集古館の近世絵画―狩野派、琳派など魅力の作品群をめぐって―」のレポートです。
久留米市生まれの山下研究員は、静岡県立美術館、京都国立博物館、東京国立博物館を経て、2017年より九州国立博物館の主任研究員をつとめています。近世絵画、つまり安土桃山時代から江戸時代の絵画を専門とされています。3つの章によって約110点件もの名品を紹介する「オークラコレクション」展より、第1章のなかで近世絵画を展示している3つのコーナーに焦点を絞り、その見どころや見方を中心にお話しされました。
「オークラコレクション」展で展示される絵画については、作品保護・文化財保護のため前期・後期で作品が大幅に入れ替わります。「別の展覧会かというくらい、ガラッと印象が変わります」と山下研究員。それを踏まえたうえで、前期・後期それぞれ見どころ作品が紹介されました。
※前期:10月2日~11月4日、後期:11月6日~12月9日。その他にも一部展示替えが予定されています。
まず「やまと絵から琳派へ」のコーナーから、《源氏物語澪標図屏風》が紹介されました。「源氏物語の澪標の段、住吉詣をする光源氏を描いた場面です。住吉大社を象徴する太鼓橋が左上に描かれているのがわかります」。
画面を拡大しながら説明をおこなう山下学芸員。たとえば「華やかな衣服とそうでない衣服の人物の顔の描き分けをみてみましょう。華やかな衣服の人物は身分の高い人々であり、彼らは引目鉤鼻(ひきめかぎはな)で描かれています。それに対して一般の人々の目鼻は、はっきり描かれています。こういった人物の描き方、また背景の描き方はあきらかに土佐派によるもので、なかでも土佐光吉に一番近いものです。ただし光吉本人ではなく、光吉に一番近い門人が描いたものであろうといわれています」など、細かく解説してくれます。
住吉如慶筆《秋草図屏風》では、「左隻ではススキが風になびき、左から右にすうっと爽やかな秋風が吹きわたっている様子がわかります。それに対して右隻は無風状態。左右シンメトリーになっており、非常に心地よいリズムで草むらが描かれています。左右の隻それぞれ被写体が、左側は手前、中央はやや奥に、そして右側は手前に菊の花が描かれ、奥行きを感じます。こういった構図を見ながら鑑賞していただくと楽しいのではないでしょうか」と話します。
重要美術品《扇面流図屏風》では、画面に散りばめて描かれる色紙は後から貼られたものではないかという説をもとに、「こうすると構図がうまいぐあいになって、センスの流れがよくなるように感じるのですが、みなさんいかがでしょう」とCGを駆使してその色紙を取り外してみるという大胆な試みも。
宮中の行事を描いた、酒井抱一筆《五節句図》。「曲水の宴を描いた三月三日の幅では、右上の人物が尾形光琳の描く人物によく似ており、また左下の人物のように後ろ姿を描くというのは琳派の特徴です」「色が見どころの一つ。元旦の左上に描かれた人物の衣装の群青色は、純度が高くにごりもなく、当時のまま残っています。五月五日の幅に描かれた菖蒲の青緑色の美しさも抱一の絵ならではといえるでしょう」など、専門的でありながらとっつきやすく楽しめる見方を指南。
話は「室町水墨から狩野派へ」のコーナーへと移ります。「オークラコレクション」展では、錚々たる絵師の絵画を見ることができますが、「中でも重要であり注目の作品」と山下研究員が語気を強めるのが、狩野探幽筆《鵜飼図屏風》です。
「盛んに篝火を焚いて夜に鵜飼をしている様子が描かれています。それを見物する船が何隻もあり、よくみるとその見物客はお武家さんなんですね。渓流が注ぎこみ左から右へ流れているという構図で、鵜飼の様が生き生きと表現されています。会場ではケース越しで見えにくいかもしれませんが、川面に篝火が写っている描写や、さらに細部を見ると水面下にいる鵜や鮎、そして鮒なども描かれています」。この事実を知ったか知らないかでは、作品の見え方がまったく異なってきます。なにしろ、鮎なんて数ミリ単位で描かれているのですから!
ほか久隅守景筆《賀茂競馬・宇治茶摘図屏風》(後期展示)、狩野安信筆《柳に野鳥図屏風》(前期展示)などが紹介され、「多彩な近世絵画」のコーナーの話へ。
「オークラコレクションの中に琉球の宮廷の絵師であった殷元良の絵がありましたので、これは九州国立博物館らしいのでぜひにとお願いして展示させていただきました」という《鶉図》。
伊藤若冲による版画《乗興舟》。「制作方法が独特で、描かれているところが白くなるネガポジ反転のような版画で、拓本のようになっています。版画とはいえ、世界中で10件しか確認されていなく、日本においては5件しか残っておりません。そのうち京都国立博物館と、このオークラコレクションのものが早い時期に刷られたものであり、濃淡のグラデーションが見事です」。
ほか、頼山陽・木米筆《五言絶句・山中煎茶図》(前期展示)、椿椿山筆《蘭竹図屏風》(後期展示)などが紹介されました。
予定していた1時間30分では到底足りず、1時間50分に渡って繰り広げられた濃密な講演会となりました。全体を通して印象に残ったのが、山下研究員の「日本の絵は細部をずっと辿っていただくと、多くの発見があって楽しい」というコメント。「西洋画や中国画のように迫ってくるのではなく、日本画はこっちからすっと『こんにちは』って入っていくと、いろんなものに気づきます。ぜひそういう見方をしていただきたい」とおっしゃるように、会場では時間がゆるす限りひとつひとつの絵画と向き合って、細かく鑑賞してみてはいかがでしょう? 歴史や専門的な知識はさておいて、日本人ならではの共感できる感性との出会いや発見があるかもしれません。
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