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大倉集古館創設 大倉喜八郎 守る父 古美術の散逸阻止し公開|オークラコレクション展(上)【コラム】

2018/10/17 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

現在、九州国立博物館で、特別展「オークラコレクション」展(12月9日まで)が開催されています。それに合わせ、収集の礎を築いた大倉喜八郎、喜七郎親子の美意識を2回に分けてたどります。

重要美術品「扇面流図屏風」(江戸初期、左隻部分)。俵屋宗達が運営した工房の制作と考えられている

東京・虎ノ門。目的地を前に長い坂が続く。息を切らして上った先に青銅色の屋根に赤い垂木と窓枠、白壁の中国風建物が見えてくる-はずだった。残念ながら現在は改修工事中で、来秋の再開館まで全容を拝めぬその建物こそ、現存する日本最古の私立美術館、大倉集古館だ。
所蔵品は国宝3件、重要文化財13件を含む約2500件。日本や東洋の彫刻や絵画、書跡、工芸と中身は非常に幅広い。古美術中心だが、近代の日本画も充実している。
創設したのは、明治・大正期に一代で大倉財閥を築いた実業家の大倉喜八郎。半世紀かけて集めたコレクションを公開するため、1917(大正6)年に設立、翌年開館したというから、今年でちょうど100歳になる。
東京、京都、奈良に国立博物館が出そろったのは明治後期。「美術館」と称する常設施設の登場は、26年開館の東京府美術館(現在の東京都美術館)を待たねばならず、集古館の先進性は際立っている。いったい何が喜八郎を美術品収集と公開という一大事業に駆り立てたのか。
喜八郎がコレクションを始めた明治初期は、日本の古美術にとって受難の季節だった。政府による神仏分離令に伴い廃仏毀釈(きしゃく)の嵐が吹き荒れ、全国で仏像や仏具の破壊、売却が広がる。幕藩体制崩壊で没落した大名や旗本は先祖伝来の家宝を二束三文で放出した。市場にあふれる美術品の買い手となったのは欧米人。欧州を中心にしたジャポニスム(日本趣味)の流行期と重なり、大量の浮世絵や仏像が海を渡った。
その「防波堤」として期待されたのが、維新後に登場した新興財閥だった。東京芸術大学の佐藤道信教授(近代日本美術史)は「実業家コレクターの出現は近代資本主義経済発展の表れ」と指摘する。

大倉喜八郎(1837~1928)


実際、喜八郎は近代資本主義の申し子と言ってよい。1837(天保8)年、現在の新潟県新発田市に商家の三男として出生。天保年間は大久保利通や木戸孝允、坂本龍馬ら維新の立役者が生を得た時代だが、若き喜八郎の関心は国事には向かわなかった。「大商人になりたい」と江戸に出る。幕末の混乱に目を付けて鉄砲店を開業、戊辰戦争で利益を上げた。国内初の商社設立をはじめ、土木、電気、ホテル、鉱業、繊維、食品など200超の事業に関わり、日本の近代化を実業の分野で支えた。
喜八郎の功績には「初めて」と付くものが多い。開拓者精神や先見性、人より一歩先んじる度量と実行力でのし上がった点は古美術でも同じ。他の財閥系実業家に先んじて収集を始め、美術商が持参したものを豪快にまとめ買いしては、質量ともにコレクションを充実させていった。外国人商人が中国から美術品を満載した船で長崎に寄港し「買い手がなければ米国に持っていく」という話を聞きつけ、船ごと買い取ったこともある。
一方、その収集は必ずしも商売の延長や投機的狙いだけでは説明できない。喜八郎が一番熱心に集めたのは仏像だが、九州国立博物館の山下善也主任研究員は「荒廃する寺社や失われていく文化財に日本人のアイデンティティーを重ね、いち早く保護に動いたのではないか」と、その心情を推し量る。大倉集古館の「集古」という一風変わった自称も、東京芸大の佐藤教授は「日本の古美術が最も困難な状況にあった時期に収集したことへの自負が込められているかも」と見る。

国宝「普賢菩薩騎象像」。平安後期の仏像として、屈指の人気を誇る。細部に施された截金の装飾も美しい

喜八郎が「集めて楽しむ」から、公共性を意識した「公開」へと前進したのは、集古館設立に先立つ1899(明治32)年。旧宅に陳列した美術品を限られた来客者に公開する「大倉美術館」を設けている。集古館の開館式で喜八郎は「収集品が再び散逸することがない保存法を考えた結果、自分の財産と切り離し、財団法人として寄付し、一般社会の人と楽しむことに至った」と演説、その思想をさらに進めた。
集古館は開館後間もない1923(大正12)年、関東大震災という大きな試練に直面した。代表的名品の一つ「普賢菩薩騎象像(ふげんぼさつきぞうぞう)」(国宝)は職員が背負って逃れたが、火災で全体の4分の3に当たる約3300件を焼失。喜八郎は財団に資金を寄付して復興の準備にとりかかるが、28(昭和3)年10月の再開を待たず、同年4月、91年の人生に幕を下ろす。

改修前の大倉集古館。来秋、再開館する。


しかし再建後は太平洋戦争でも被災することなく、戦後の混乱期も乗り切り、現在まで名品を守り伝えてきた。収集を通じて文化財を守る、鑑賞する楽しみを市民と共有するという喜八郎の「夢」は後に続く多くの美術館の理念ともなり、大倉集古館の開館から100年を経たいま、現実のものとなっている。 (佐々木直樹)=10月6日 西日本新聞朝刊に掲載=

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