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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 9

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山出淳也
2021/01/05
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あの日のこと​

 20年前、僕はニューヨークにいた。

 PS1という美術館から招聘(しょうへい)され、1年間施設内のアトリエが与えられたからだ。これまで招かれたアーティストは錚々(そうそう)たる方々。その一人、中国出身の蔡國強さんに滞在が決まったことを報告した。蔡さんは、北京五輪の開会式の演出で知られる、火薬を用いた作品制作を行う巨匠である。「アメリカは多民族国家。いろいろな価値観を持つ者が集まっている。伝えたいことが一瞬でわかるように、表現から余計なものを取り除きなさい」と助言を受けた。

 12カ国から選抜されたアーティストが集った。作風も考え方も異なる我々は、互いに干渉することなく制作に励んでいた。マンハッタンに僕は住んだ。多民族が共存するこの街は、僕にとってとても居心地が良かった。異なる価値観の人々が同じ場所に集う。なんて素敵なんだと思った。

 1年間の滞在を締めくくる展覧会が企画された。僕は街で出会ったたくさんの人から、必要になれば返すことを条件に鞄(かばん)を借りた。鞄には持ち主の名前を記したタグをつけた。10メートルほどの細長い台に空っぽの鞄を置き、夏の間、展示した。何かを抱えてここに集い、いつか去っていく。そんな風景を創(つく)ろうと思った。マンハッタンの摩天楼を模して積み上げた鞄は、想定外にも全て会期の半ばで返し終えてしまった。持ち主の名前が書かれた白い紙切れだけが無造作に台に残った。

 それから僕は新作の発表のため、メキシコに2週間ほど滞在した。その後、台湾に向かい、ニューヨークで乗り継いだ。たまたま機材整備不良で空港近くのホテルに1泊し、翌朝飛び立った。妻と2人で「空から見るツインタワーって綺麗だね」と名残惜しく街を見下ろした。それが2001年9月11日。その後すぐに二つのビルは消えてしまった。

 1年後、仕事でアメリカに戻りタクシーに乗った。おそらくドライバーは中南米からの移民だった。車内の至るところに星条旗が掲げられていた。イスラム圏出身のアーティストたちはすでに街を離れていた。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(11月13日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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