江口寿史展
EGUCHI in ASIA
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福岡アジア美術館
山出淳也 2021/02/04 |
街のアイデンティティ
フランスの西部にナントという街がある。
産業革命以降、欧州の各地は工業都市として発展、都市化が進んだ。しかし20世紀半ばを過ぎると日本などの新興国との競争に敗れ、そのいくつかは基幹産業が衰退し、経済的に困窮した。ナント市もそうだ。1980年代には大量の失業者が出たという。
その状況下、都市再生の柱に文化を据えることを公約に掲げ、当時39歳の市長が当選した。89年のこと。通常であれば失業対策を「一丁目一番地」として企業誘致などで“止血”する。僕でもそう考える。しかしこの街は目の前のパンより、未来への種まきを優先したのだ。
工場の跡地をアーティスト集団に安価で貸し出す。彼らは世界的に人気の劇団へと成長していく。まち巡りとクラシック音楽を融合させたイベントは、世界にその仕組みが輸出されている。「クラシックは敷居が高い。なぜロックのように気軽に聴きに行けないのか?」と言う市民の素朴な疑問から生まれたという。
それから14年たち、ナントはフランスで最も住みやすい都市と言われるようになった。自治体経営総合順位はフランス10大都市で1位になるまでの成長を遂げた。その立役者の1人、元文化局長のジャン=ルイ・ボナンさんに話を聞いた
「なぜ再生できたかって? リーダーが市民の声に耳を傾け、現場で働く若手を信じたからだよ。そして、未来を想像させうる芸術家が住みやすい街を、勇気を持って作ろうとしたからだ」。そう語り、言葉を続けた。「私たちは企業誘致を最優先しなかった。企業自らこの街に移りたい、人々がこの街に住みたいということに全力で臨んだんだ」
2007年に別府市で開催した国際シンポジウムに彼を招いた。案内しながら、この町について知っていることを一生懸命説明した。車を止め、浜辺を歩いた。その時、彼はこう言った。
「まずは、この素敵な浜辺で詩をよむことから始めなさい。希望について。愛について自らの言葉で語るんだ。街のアイデンティティはそうやって生まれていくんだ」(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)
=(11月26日付西日本新聞朝刊に掲載)=
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