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【連載】山出淳也 アート、まちに出る 20

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山出淳也
2021/02/11
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声を出すこと

声に出し、想いを伝えることはとても大切だと思う。たった1人の妄想でも声に出し伝えた瞬間に、複数の人の未来に変わることがある。

 あの日もそうだった。2005年11月6日、僕は前橋にいた。アート系のNPOやメセナに積極的な企業が集い、学ぶためのフォーラムに参加するためだ。03年に始まったこのフォーラムは、毎年都市を変えて行われる。この年は前橋が開催都市として選ばれていた。

 主催する地元の団体の問題意識が、その年の討論の性格を大きく変える。この年は、空き店舗が多い前橋の中心市街地をアートの力で再生できないか、そんな意思を感じさせた。百貨店だった建物も会場だった。窓ガラスに色とりどりのフィルムが貼られていた。近隣から借りてきた種類も大きさもバラバラの椅子はまるでアートのようにも見える。

 最後に次回の開催地を立候補で決める。「名乗りをあげる方はいないか?」。待ってましたと僕は手を挙げた。同席していた、大分県庁の方が応援演説をしてくれた。「別府は温泉地。皆を温かく受け入れます。是非来年はわが町で!」。会場から「別府で温泉に入りたい」と声が上がった。芯から冷える空きビルが会場だったせいか、温泉というキラーワードが参加者に突き刺さった。

 翌年の10月、別府で『アートNPOフォーラム』が実現した。バスに乗り、特徴的な場所を巡り議論を積み重ねた。ホテル、港、温泉。まち歩きも交えた。3日間のフォーラムの最後、数年後に開催予定の芸術祭の構想を発表する計画だった。

 実のところ、当日の朝まで何を話し、どういう計画を発表しようか悩んでいた。でも、まるでイメージが出てこなかった。僕は正直に「名称も、主催も、会期も、会場も全くの未定だ」と伝えた。どよめきが起こり、案の定、怒られた。ひとしきりその状態が続いた後、どうすれば市民の力で実現できるか意見が出始めた。全員がこの町の未来について考え始めている状況に僕の心は高鳴った。数年後、そこにいた人たちの数人が中心となり、この芸術祭は実現し今に至る。(やまいで・じゅんや=アーティスト、アートNPO代表。挿絵は鈴木ヒラクさん)

=(11月30日付西日本新聞朝刊に掲載)=

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