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「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎 」展【学芸員コラム】とことん比べてみる(その2)二人が山を描けば

2022/12/26 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 久留米市美術館では、同市出身の洋画家、青木繁(1882~1911)と坂本繁二郎(1882~1969)の画業をたどる「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」を開催中です。66年ぶりの「二人展」では約250点の作品を通して、目指す方向も性格も、生きた時代の長さも異なる二人の「旅」を、時に交差させながらひもときます。
 
 本連載では、久留米市美術館の方々から、4回にわたって見どころを紹介していただきます。

1回目はこちら

*****

 二人の画壇デビュー前、それぞれが描いた山の絵があります。ここでは、青木の《神塞妙義》と坂本の《水縄山風景》を比べてみましょう。

坂本繁二郎《水縄山風景》1898年 石橋財団アーティゾン美術館

 坂本の《水縄山風景》には、水縄(耳納)連山と手前に広がる田畑が描かれています。右側からさす光は夕日でしょうか。曲がりくねる道が、私たちの視線を奥へと誘います。途中には水たまりもあり、その水面には木々の影が映り込んでいます。麓の家々には明かりがともり、煙が立ちのぼっています。ここには、人の姿こそありませんが、人々の暮らしの様が描かれているのです。これを描いた頃の坂本は、まだ久留米にいて、森三美先生の画塾で絵の勉強をしていた頃の16歳だったと知ると驚きを覚えます。神童と呼ばれていたのも納得できます。

《神塞妙義》1902年 石橋財団アーティゾン美術館

 1902(明治35)年の秋、青木と坂本、そして同じ久留米出身の画学生・丸野豊の三人は、妙義から信州にかけての写生旅行に出かけました。この旅行中、青木にはたくさんの収穫があったと伝わりますが、残されているのはスケッチブックに描き込まれたスケッチだけで、現在は一場面ずつ切り離された状態になっています。青木の《神塞妙義》は、その時のスケッチの一枚です。青木没後の坂本の回想に、「一寸したスケッチ『妙義山』の如きにも岩山を見ずしてして神塞を見た」という文章がありますが、まさにこのスケッチのことを指しているように思います。この山々には、人間の入り込む余地はなく、神々が住んでいるような厳かさが感じられます。

 同道した坂本と丸野が描いたスケッチは残念ながら知られておりません。この旅は、山の奇景を期待していたにもかかわらず期待はずれだった、と後に坂本は告白しています。坂本の関心は、「庭石の様に立並んで居る妙義山の姿」にではなく、「松井田当りの桑畑の葉の黄色の一つ一つが寒い風にゆらめいて居るのや、磯部宿の湯気の上って居るのなど」に向かっていたのです。

森山秀子(久留米市美術館)

※その3に続きます

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