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福岡アジア美術館開館20周年記念展<連載1>蔡國強の壮大な企て 爆発から始まったアジア美術の旅【コラム】

2019/10/19 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

 アジアの近現代美術を専門に紹介する世界唯一の美術館として開館した「福岡アジア美術館」(福岡市博多区)が、開館20周年記念展覧会を開催している。各地に飛び込み、作品の収集や研究、交流を重ねてきた学芸員たちが、収蔵品の中から「アジア美術の100年間をたどる」との触れ込みで厳選した展示作品を紹介しながら、20年の歩みを振り返る。

ツァイ・グオチアン(蔡國強)《天地悠々プラン:Project for Exraterrestrials No.11》1991年

 1991年9月15日午後6時54分。福岡市東区の香椎操車場跡地横を電車が通過するときを待って、導火線に火が点けられた。赤い炎は、まるで龍のようになって地上を猛烈なスピードで駆け抜け、天に向かって飛び立った。その間、わずか数秒。このとき放たれた閃光は1秒間に30万キロという速度で宇宙を旅し、いつかどこかにいる地球外生命体に届くのだという。

蔡國強の爆発プロジェクト。爆発した瞬間、炎が地上を駆け抜けた
(提供:ミュージアム・シティ・プロジェクト) 


 中国人アーティストの蔡國強による爆発プロジェクトは90年代の福岡のアートシーンにおいて最も大掛かりなものだった。この前代未聞の試みは、ミュージアム・シティ・プロジェクトという組織が91年に開催した「非常口 中国前衛美術家展」の中で計画された。
 当時の蔡はまだ30代前半。福建省で生まれ育ち、上海演劇大で舞台美術を学んだ後、日本に移住して5年ほど経った頃だった。この若者が後に北京オリンピック開会式の芸術監督として、花火による壮大な演出を手掛けることなど、誰も想像できなかっただろう。
 福岡アジア美術館の開館20周年記念展「アジア美術、100年の旅」で展示しているのは、この非常口展でのプロジェクトを図解したもので、画面の上で火薬を爆発させて、一瞬で抽象絵画のようなイメージを作り出した作品である。

 福岡アジア美術館が博多の地に誕生したのは、99年3月。開館記念展は、アジアの最新の美術動向を紹介する「福岡トリエンナーレ」だった。開会式にはアジア各地の美術関係者をはじめ、大勢の人が集まって開館を祝した。それから20年、コレクションは3千点に迫るまでに成長した。
 歴史を振り返ると、79年に開館した福岡市美術館まで遡る。福岡市美術館が取り組んできたアジア美術の紹介やコレクションを継承する形で誕生したからだ。
 起点となったのは今から40年前に開催された「アジア美術展」だ。当時は学芸員ですら、アジアの同時代の美術状況についてまったく知らなかったという。無謀ともいえる挑戦だったが、もしアジア美術の紹介に挑み続けてこなかったら、90年代の日本におけるアジア美術の盛り上がりも、今の福岡アジア美術館も存在しなかっただろう。
 福岡市美術館から継承したのは700点弱のアジア美術コレクションだけではない。基本理念でもある「美術を介したアジアと福岡、アーティストと市民との交流・相互理解」もその一つだ。きっかけとなったのは89年に開催された「版画ワークショップ」で、アジア各国から18人のアーティストが福岡に集まった。
 本展の「アジアのなかの福岡 交流する都市」というセクションでは、このときに制作された版画作品を皮切りに、次第に本格化する交流型の滞在制作作品を紹介している。蔡による爆発プロジェクトもその中に含まれている。
 香椎操車場跡地でおこなわれた蔡の壮大な企てを、今の私たちが直接体験することはできない。しかし、当館のコレクションとなったプラン図としての作品、そしてアーカイブされた記録映像を見れば、その場の臨場感やアーティストの熱量が伝わってくるはずだ。

(中尾 智路 福岡アジア美術館学芸員)

 

▼蔡國強
1957年生まれ。米ニューヨーク在住。火薬や花火を用いた壮大な作品で知られ、中国伝統の世界観に根ざしながらも普遍性を獲得した表現で国際的に評価されている。99年、ベネチア・ビエンナーレで国際金獅子賞。2009年、福岡アジア文化賞。

=10月14日西日本新聞朝刊に掲載=

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