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まなざしの果実 熊谷守一展から<4>【連載】

2020/01/10 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

熊谷守一(1880~1977)は97年の生涯で、自らを取りまく草花や動物、虫、人間の「いのち」を等しく見つめ、洗練された構図で描き出した。絵は守一と画題との対話の実りのようでもある。「モリカズ様式」と呼ばれる独自の境地を拓(ひら)いた作品世界を5回にわたって紹介する。

薔薇(1971年、公益財団法人ひろしま美術館蔵)

自宅の庭のそこかしこには「天狗(てんぐ)の腰かけ」と呼ばれる切り株など、守一の定位置が散らばっていた。そこへ座り、あるいは寝そべって、草花や虫の動き、猫やガマガエルの表情を一心に見つめた。「わたしにいわせれば、蟇(がま)だってよく見ると、美人もいれば口紅をつけて澄ましているのもいる」(「蒼蝿(あおばえ)」1976年)。彼の言葉は、その凝視ぶりを表すようだ。

豆に蟻(1958年)


  アリも守一は好んで描いた。「豆に蟻(あり)」は種皮を破ってまさに顔を出さんとする芽や、伸び始めた新芽を囲み、せわしなくアリが動いている。守一の弁では「地面に頰杖つきながら 蟻の歩き方を幾年もみていてわかったんですが 蟻は左の2番目の足から歩き出す」(「獨楽(どくらく) 熊谷守一の世界」76年)のだそうだ。
  「薔薇(ばら)」もよく見ると、茎の先にまずがくがあり、そこから花弁が天に開く。「仰ぎ見なければこういう構図にはならない」と森智志学芸員。寝そべった守一が見上げたのだろうか。=12月26日西日本新聞朝刊に掲載=

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