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2018年九州内展覧会回顧:歴史と対話重ね 近代化問い直す【コラム】

2018/12/27 LINE はてなブックマーク facebook Twitter

明治元(1868)年から150年にあたる今年は、九州各地の美術館や博物館で節目を記念する企画展が実施された。美術の分野でも現代につながる重要性を帯びた変革の時代を振り返り、先人たちの格闘をどう評価するのかを巡って「歴史との対話」が積み重ねられた。
佐賀県立博物館・美術館(佐賀市)の「温故維新 美・技のSAGA」展(3~5月)は幕末から現代までの佐賀と関わりの深い美術家たちの代表作で150年の歴史を振り返る企画。最後の佐賀藩主の渡欧に随行し、英仏で洋画を学び、日本の近代洋画をリードした百武兼行から、近年、精緻なペン画が世界的に評価されている画家池田学までを紹介し、現代まで続く美を追求する精神を表した。
一方、出光美術館・門司(北九州市門司区)の「近代日本の美」展(4~6月)は、近代化が日本の美意識に与えた影響を考察する企画。時代の美意識に沿う表現を探り続け、絵画や工芸の分野で現代への扉を切り開いた巨匠たちの奮闘の様子が感じられた。


日本が西欧に比べて急速に近代化を成し遂げたことを称賛し、自賛する風潮が近年強まりつつある。そこには、多様なはずの歴史の認識を狭める危うさがあるが、近代化への歩みを独自の視点で切り込んだのが、福岡アジア美術館で開催中の「闇に刻む光 アジアの木版画運動」展(2019年1月20日まで)だろう。

 

アジア各地の木版画を集め、相互関係を見つめ直すことで植民地からの独立、独裁政権からの民主化、過酷な労働条件の改善など、1930年代以降のアジア近現代史を貫く抑圧された民衆による「抵抗」の歩みを浮き彫りにした。正規の美術教育を受けていない在野の人々が、身に迫ってくる状況に反応して生まれた表現行為の歴史をすくい上げた点が他の美術館にはない重要な視点だった。
大正デモクラシーの暗転から戦争への道を体験した世代の訃報も相次いだ。5月には大正11(1922)年生まれの画家宮崎進=山口県出身=が96歳で、7月には同6年生まれの版画家浜田知明=熊本県出身=が100歳で亡くなった。浜田の追悼展(第1期7~9月、第2期10~12月)が熊本県立美術館本館(熊本市)では代表作「初年兵哀歌」シリーズ全16点などを展示。残酷な光景を美しく淡々と描いた作品は、戦争の暴力性に静かに迫っていた。
日本の近代化をテーマにした企画展以外では、大分県別府市で開催された現代美術家アニッシュ・カプーアの日本における最大規模となる個展(10~11月)が話題になった。屋外に設置された日本初公開の「スカイ・ミラー」は直径5メートルの巨大な鏡で、時間帯や天気、鑑賞する角度によって違う顔を見せ、地上に空が落ちてきたような動きがある作品だった。世界の現代アート界の巨匠カプーアだが、鑑賞するというよりも、体験することで予備知識がなくても楽しめる作品群は圧巻だった。

ARTNEコラム「現代美術家 アニッシュ・カプーア 別府で日本最大規模の個展 「生で体験する」ことの意味」より

 

改修工事のため休館中の福岡市美術館のコレクション展「モダンアート再訪」が埼玉や広島など全国4カ所の美術館・博物館を巡回(2~11月)した。ダリやウォーホル、草間弥生のほか、1950~60年代に福岡を拠点に活動した前衛芸術集団「九州派」の作品群が注目を集めたことは、美術館の所蔵品にあらためて着目する契機となった。
同美術館の再開館が来年3月に決まり、コレクション展がオープニングを飾ることが発表されている。くしくも改修休館中だった東京都現代美術館もコレクション展で再開するという。芸術作品を後世に残す役割を担う施設として、本来、収蔵品の充実と活用は美術館活動の肝である。熟知した作品による最上の企画展がそのまま常設展の充実にもつながることを望む。
(佐々木直樹)=12月18日 西日本新聞朝刊に掲載=

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