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「マンモス展」監修者2人によるサハ共和国調査報告と、展覧会にかける想い(前編)【レポート】

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木下貴子
2020/02/06
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福岡市科学館には外からエントランスへと続くトンネルのような長いエスカレーターがありますが、「マンモス展」(2月24日[月・振替休日]まで)が開催されている現在、週末ともなるとそのエスカレーターにも入り切れないほどの長蛇の列ができています。それもそのはず、「マンモス展」には世界初公開のお宝的標本が展示されており、それらを一目見ようとたくさんの人が押し寄せているのです。そんな世間を騒がせている「マンモス展」の監修を担ったいとうせいこうさんと近藤洋一さんのお二人によるトークイベントが開かれました。その様子をレポートします。

 


イベントはトークライブ形式で『マンモスのふるさと、ロシア連邦サハ共和国に行ってきました!』」と題し、1月18日(土)に開催されました。

福岡市科学館6階のサイエンスホールにて。展覧会同様、トークも大人気で満席です

2019年2月に、いとうさんと近藤さんは「マンモス展」開催のためにロシア連邦サハ共和国を訪れました。そこで体験した様々な出来事をたくさんの貴重な写真とともに、楽しく語ってもらいました。モデレーターは、フジテレビ「マンモス展」チーフプロデューサーの田中晋太郎さんです。

初めに田中さんがご挨拶。田中さんはいとうさんと近藤さんのサハ共和国への調査はもちろん、昨年夏には同じくサハ共和国でのマンモス発掘調査にも同行しています


いとうさんと近藤さんがご登壇するやいなや、「マンモス展」を通じてすでに親交がある3人は、ざっくばらんに雑談をはじめました。のっけから盛りあがります。

 

ご存知!作家・クリエイターとしてご活躍される、いとうさん

会場が温まったところで、本題に。3人を含む調査チームが昨年2月に訪れたサハ共和国での話がはじまりました。

日本のはるか北に位置するロシア連邦サハ共和国は、日本の8倍の広さがあり、人口は95万人です。南アフリカとならぶ世界有数のダイヤモンド生産地でもあります。冬はマイナス40度以下を超える極寒の地で、いとうさんたちが空港に着いた時もマイナス43度だったといいます。「深呼吸したら死ぬって言われましたけど、あれは冗談だったの?」といとうさん。「怖いから恐る恐る息を吸ったんだけど、肺にチクチクってくるのが完全にわかりました」と話します。一方、近藤さんはというと「僕はまず眼鏡を変えてくださいと言われましたね。金属製のフレームだと凍傷になりますよって」。セルロイドのフレームに変えたものの、眼鏡屋の店員さんからは「保障できません」と言われたそうです。マイナス40度とは想像しがたいのものですが、とてつもない寒さということだけはわかりました。

「マンモス展」の古生物監修をされた近藤さん。近藤さんは野尻湖ナウマンゾウ博物館の館長です

 

サハ共和国の首都・ヤクーツクの地面は、永久凍土に覆われているそうです。凍土の冷たさが直に伝わってこないよう、また、夏場に地面が溶けて建物が倒壊しないよう、特別な手法で作られた高床式の建築物が建てられているといいます。

生鮮市場を訪れた、いとうさん。「風が吹きさらしの場所にあって30分以上いたら僕なんか凍傷になりそうなくらい寒いのに、市場の商人は1日中ここに立っているんですよ。しかも、立っているのはその人たちだけじゃなくて魚も! 魚が直立した状態で売ってあるんです。くっついたら離れちゃうからこれが一番合理的な並べ方なんでしょうけど」という驚きの写真がこちらです。

 

さらに上写真の魚の下の方を示して、「度肝を抜かれました。ぬいぐるみかと思ったらうさぎがね、カチンコチンに凍ってて目玉もそのままなんですよ。あまりにも珍しくて思わず抱きしめて写真を撮ってもらいましたけど」と苦笑い。ちなみに魚は川魚で、現地では凍ったままスライスして口の中で溶かして食べるそうです。

「お土産もマンモスの牙が使い放題でびっくりしちゃったね」といとうさん。マンモスの牙はワシントン条約に触れないため素材として使われ、ゆえにマンモスハンターが存在するのです。「マンモス博物館にも牙が売っているという公認の状態でしたね」。

ヤクーツクの土産物屋では、マンモスの牙を彫って作られた置物やチェスなどが売られています

いよいよマンモスの研究施設へ。一行は「マンモス展」で展示物の大部分を借り受けている、ロシア北東連邦大学の生態研究所の中にあるマンモスミュージアムを訪れ、マンモスの第一人者ともいえる館長のセミヨン・グレゴリエフ博士との対面を果たしました。

マンモスミュージアムでの調査の様子

写真に写るマンモスの鼻は、今回の展示品の一つです。「鼻は冷凍標本でもなかなか残らないので大変貴重です。保存状態が特によく、これによってマンモスの鼻の先の形態がかなり明確になったというものです。象の鼻はアフリカゾウ、インドゾウ、ナウマンゾウ、マンモス、みんな形が違うので非常におもしろかったですね」と近藤さんは力説します。

 

グレゴリエフ博士が次から次に出してくれた冷凍標本を、特別に嗅がしてもらういとうさんと近藤さん

いとうさんと近藤さんが見せてもらった冷凍標本は、マンモスミュージアムでも一般公開されておらず、通常は博士ら研究員しか見ることができないものだそうです。ガラスを曇らせずにあれだけのマイナス温度を保ちながら見せられる冷凍展示室を作る技術も会社もロシアにはないのがその要因だといいます。今回、日本で「マンモス展」が実現したことの大きな理由の一つに、三菱重工冷熱による冷凍展示室の完成がありました。「その冷凍展示室1つ作るのに、おそらく百道浜の高層マンションの上の方の部屋が買えてしまうほどの値段がかかっております」と田中さん。恐ろしい設備費です。なお、東京展の開幕時には温度表示がなかったのですが、冷凍展示室の性能があまりにもよすぎてガラスも何も曇らず、常温にみえてしまうということで、東京展の途中で温度表示が追加されたそうです。

マンモスミュージアムは、マンモス以外の永久凍土から発掘された様々な動物の標本も保管されています。「カチンコチンに凍った土中にあるので、本来は出て来るはずのないもの。それが、ここ近年で一気に研究が進んでいるわけですが、その裏に地球温暖化があるということですよね、いとうさん」という田中さんの問いかけに対し、「そう。だから皮肉なことでもあります。標本が出てきていろんなことが分かるようになるのは喜ばしいことだけど、一方でそれは今後我々を苦しめるであろうものによって出てきているんです。ですから警告のようにも感じるし、彼らの絶滅にも気候変動がなんらか関係したこともまざまざと感じます」と応えるいとうさん。地球温暖化への危機感からさらには、近年のマンモス復活プロジェクトにまで話がおよび、生命に対する倫理観についての意見なども交わされました。いとうさんの「『マンモス展』展覧会を見てもらうことで、一人ひとりが考えたり、人に話したりしてもらったり…これまでのマンモス展とそこがまず違います」との言葉から、いとうさんの本展にかける想いを強く感じました。

後編につづきます

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