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2017年九州・山口展覧会入場者数ランキング【コラム】

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アルトネ編集部
2018/01/09
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九州・山口の展覧会情報やアートに関連情報を発信するWEBマガジンARTNE(アルトネ)は2017年4月の立ち上げ以降、たくさんの展覧会をご紹介してきました。その情報発信で培ったネットワークを駆使し、ARTNE編集部では2017年に開催された展覧会入場者数のアンケートを実施。美術館・博物館からの回答を元に作成した<入場者数ランキング>を発表します。世界や日本全国を対象としたランキングとはまた違った現実が浮き彫りになっているのではないでしょうか。
このランキングの所感を福岡市美術館副館長・中山喜一朗氏(福岡市美術館はリニューアル工事のため2019年3月まで休館中)にご寄稿いただきました。振り返るだけではない、未来に向けた指針をぜひお読みください。(編集部)

対象期間:2017年1月以降に開会~2017年12月
調査対象施設:当サイトの美術館・博物館リスト登録館に5万人以上動員した展覧会のヒアリングを実施し、回答があった館のみ掲載。一部の館は公開用の概数。

「美術以外」と「体験型」
2017年に九州・山口で開催された展覧会(いわゆる特別展)の<入場者数ランキング>を見た。ある程度は予想していたが、1位、2位が「ジブリの大博覧会」大分展と長崎展で、5位に山口の「スタジオジブリ・レイアウト展」が入っていた。九州・山口だけで1年に3回もあったにも関わらずこの結果だった。ジブリ展は強いなと、いまさらながら思う。

ランキング入りしたなかで、美術作品が並ぶ“普通の美術展”が「池田学展」(佐賀は地元とはいえ現代作家のワンマンショーで9万5千人はすごい)と「新・桃山展」(あれほどの内容なのに8万7千人は残念だったのではないか)の2本しかなかったというのにも少し驚いた。ラスコーやポンペイの壁画、ファラオの黄金のマスクも美術ではあるが、歴史的価値の比重がかなり大きいので、“普通の美術展”と呼ぶには少し躊躇がある。

もうひとつ、受動的に作品を見るだけというのではなく、なんらかの体験要素があるとか、展示物以外の映像や空間にも工夫が加えられている展覧会の占める割合が多く、子ども向けの参加体験型展覧会が堅調だったことも指摘できるだろう。

「美術以外」と「体験型」というキーワードが浮かび上がる傾向は、2017年に限ったことではない。5年以上前からの動きがさらに顕著になってきたというほうが事実に近い。ゴッホ展やルーブル展のように、超有名画家や超有名ミュージアム以外ではなかなか入場者が確保できない“普通の美術展”事情も、いまに限ったことではない。特に近年は、以前なら大量動員が約束された定番の展覧会でさえも、地域差はあるが、既視感のある内容や使われすぎたブランドでは数字は伸びなくなってきている。

これらを総合すると、ミュージアムに求められる活動の幅が広がり、鑑賞者の目が肥えたという結論に導かれるが、これはこれで自然な流れである。

大分県立美術館(OPAM)「ジブリの大博覧会~ナウシカからマーニーまで~」会場の様子

「池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー」佐賀県立美術館 会場風景《誕生》 撮影:宮島径
©️IKEDA Manabu, Courtesy Mizuma Art Gallery
【ARTNEゲストコラム】ギャラリスト三潴末雄が語る常識破りの池田学展」より
新・桃山展における展示風景
狩野永徳筆「唐獅子図屏風」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)
鉄砲伝来が日本の美術を変えた!? 桃山文化の新しい魅力に迫る【レポート】」より

 

価値の創造
既成の作品を並べて見せるという美術館の展覧会の基本にゆらぎが生じていると思う。例えばジブリ展でいえば、オリジナル作品はアニメ映画であって、作品全編が展覧会場で展示(上映)されることはない。だからといってコアなファンだけのための資料展に終始してはいない。オリジナル作品同様に、幅広い世代が楽しめる仕掛けがあるし、展覧会のために新たな展示物が作られている。アニメが誕生する段階から、様々な資料の資源化が組織的に進められてきたのだと思える。価値の永続化、普遍化に対する努力が二次元コンテンツの三次元化や作品に付随したアイデアの効果的な活用に繋がっている。

1990年以前、サブカルチャーと呼ばれたジャンルには制作と消費だけしかなかったように思う。いまや心ある制作者たちは、制作と保存と継承を同時に進行させている。サブカルチャーをハイカルチャーにするというのではなく、サブカルチャーやポップカルチャーの価値観自体が変化して、サブやポップを取り除く必要がなくなってきたというほうが正しい。日本人は江戸の昔からこのジャンルに極めて強いという伝統もある(浮世絵はサブカルであると個人的には思う)。

10年以上前、IT関係の国際シンポジウムが福岡で開催され、「ITとミュージアム」をテーマとする分科会があった。その際、デジタルコンテンツはすぐに飽きられて古くなり、使い物にならなくなるが、アナログコンテンツ(美術作品など)はいつまでも新しいという趣旨の発表をしたことがある。しかしいまは考え方を改めている。どのようなコンテンツであっても、その普遍的な価値に気づき、周到に準備していけば価値は永続し、継承される。たとえ継承されなくても、再発見された時には正しく検証され、再評価できる。そういう土壌がアート以外の分野で芽生えてきていることは、展覧会を享受する人々だけでなく、ミュージアムにとっても喜ばしいことではないか。

もともと展覧会は新しい価値を生み出すことのできる場であるのだから、既成の評価に頼るだけではなく、ミュージアムは新しい価値の創造にもっと積極的に関与すべきである。そんなことは百も承知だろうが、かつてサブカルチャーと呼ばれていた分野の展覧会から学ぶことは予想以上に多い。オリジナル作品が展示されない展覧会だからこそ、企画者に創造性が求められる。それは、将来のミュージアムと学芸員のあり方にも関わってくる。美術館と学芸員が展示作品を創造する時代がやってくるかもしれない。

明日への指針として
<入場者ランキング>に関して最後につけ加えたいことがある。数だけではわからない満足度や展覧会の内容に対する入場者の評価である。量と質は、完全に相関しているのだろうか。ミュージアムが社会教育施設であることをやめない以上は、量と質を掛け合わせたものが本来の展覧会ランキング、つまり展覧会を開催した社会教育的効果の数値化になるのではないかと思うのである。各施設でしばしばアンケートが実施されているが、設問は共通の基準で作られていないし、展覧会の内容をきちんと評価できるような設問であるかどうかもわからない。すごく感動したけれど、人が多くて気分が悪くなったので途中で出た、というような場合、ただ単に4択や5択で満足度を聞くと結果はどうなるのだろう。展覧会そのものと、運営やサービス、施設や設備への評価が混在していることもあるだろう。

専門的な視点から吟味された同一の設問による地域横断のアンケートを展覧会ごとに実施して、様々な分析結果のランキングも公表していけば、これからの特別展企画への指標になるのではないか。

 

中山喜一朗
福岡市美術館副館長。1954年大阪府生まれ。東海大学大学院芸術学修士課程卒。1981年福岡市美術館学芸員、その後福岡市博物館、福岡市美術館の学芸課長等を経て現職。専門は日本近世絵画史。主な編著書に『福岡市美術館叢書第2号 仙厓―その生涯と芸術―』(葦書房)『若宮三十六歌仙絵』(若宮三十六歌仙保存会)『仙厓の○△□』(葦書房)『別冊太陽 仙厓』(平凡社)など

 

※本記事および記事内画像・表などの無断転載を禁じます。

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